事業承継とは、会社経営を後継者に引き継ぐことを指しますが、承継するうえで特に重視したい内容としては、「人的資源」と「知的資源」があげられます。
事業承継において、人的資源と知的資源を適切に引き継ぐためには、どのような点を抑えておけば良いのでしょうか。
目次
人的資源、知的資源とは?
人的資源とは、「ヒト」そのものが経営資源であることを指し、知的資源とは自社が持つ技術など、目に見えない形の資産を指します。
知的資源が活用されるためには、人的資源の質を高めることが重要です。
人的資源とは?
人的資源とは、経営資源のうち「ヒト」のことを指します。
なお、経営資源には、有形のものである「ヒト」、「モノ」、「カネ」と、無形のものである「情報」があります。
「モノ」、「カネ」、「情報」の資源は、単独では経営に対して何も作用することはありません。
しかし、これらの経営資源を「ヒト」が活用することによって、その特質が経営に活かされ、経営効果を高めることが可能となります。
このことから、人的資源は経営において重要な位置づけを占めていることがわかります。
また、人的資源の特徴としてあげられることは、「育成できること」と「変動的であること」です。
人的資源以外の経営資源は、それら自体が固定的なものであり、成長することはあり得ませんが、
「ヒト」はさまざまな経験を積み重ねていくことによって成長を遂げることが可能な存在といえます。
そのため、企業において従業員を計画的に教育していくことによって、将来を担う従業員が育成できます。
一方で、「ヒト」は変動的な存在であることも特徴的です。適切な教育によって成長を続ける従業員もいれば、
教育を行っているにもかかわらず、思うような成長がみられない社員もいるものです。
そのため、人的資源をうまく活用していくためには「人的資源管理」を取り入れる必要があります。
人材を適切に配置したり、適切に評価したりすることがポイントとなります。
知的資源とは?
知的資源とは、技術や組織力、企業のブランドなど、企業において目に見えない資産のことを指します。
経産省の定義は以下となっています。
「知的資産」とは、人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えない資産のことで、企業の競争力の源泉となるものです。
これは、特許やノウハウなどの「知的財産」だけではなく、組織や人材、ネットワークなどの企業の強みとなる資産を総称する幅広い考え方であることに注意が必要です。
参照:経済産業省
企業経営において、資産といえば土地や建物、現預金など、目に見える資産が一般的といえます。
目に見えない形の資源である知的資源は、企業経営においては重要な位置づけといえます。
その理由は、企業が売上を高めるためには、目に見える資産を活かすだけでなく、企業が持っている技術や組織力などの目に見えない資産、
そして人的資産も含めて適切に活用されることが必要といえるからです。
目に見えない資産である知的資源を活かすことが、企業の価値を高めていくためには大切なことといえます。
人的資源の承継方法は?
人的資源がスムーズに承継されるためのポイントは、人的資源の質を高めること、つまり、人材教育に重点を置くことが大切です。
人材の質が高まるほど企業としての質も高まるために、M&Aを実施した場合に譲渡される確率が高まります。
人材育成を重点に置く
人的資源の承継がスムーズに行われるための基本としては、日頃から人材育成に重点を置くことがあげられます。
先の項目で「経営資源」について述べましたが、経営資源において人的資源は重要な位置づけです。
そして、人的資源は「変動的であること」を説明しました。
人的資源が変動的ということは、良い方向へと成長することが期待される一方で、思ったほどの成長がみられないことも十分に考えられます。
このことは、見方を変えれば人材育成を適切に行うことによって、人材の成長が十分に期待できるということです。
人材育成において従業員教育を十分に行うことができれば、従業員全体のレベルが底上げされるために、質の高い業務を行えるようになります。
→ 会社を高く売るには?M&Aで会社の売却価格を高めるポイントを解説。
企業全体のレベルを普段から底上げしておけば、将来的に後継者が見つけられなかったとしても、
M&Aにおいて、譲り受けする企業から価値があると判断されれば、自社が培ってきた技術やノウハウは引き継がれることとなります。
このことからも、日頃から人材育成に力を入れることは、事業承継を行いやすくする観点からみても重要なことといえるのです。
→ 事業承継における会社売却の魅力を解説!後継者がいない場合は第三者への承継を検討しよう。
M&Aと自社内での事業承継、両方を視野に
また、人材育成に重点を置くことで、M&Aを活用した事業承継のほかにも、自社内における事業承継も行いやすくなります。
M&Aの場合、社内に後継者候補がいなかったとしても、譲り受け先の企業に自社の企業を譲渡することで解決しますが、
自社内において事業承継を行うのであれば、長期的な視点で人材育成を行う必要があります。
自社内において事業承継を行う場合、親族に対して承継する方法と、社内の従業員に対して承継する方法がありますが、
いずれの方法をとるにせよ、日頃から社内において人材育成を行っていくことは大切なことです。
事業承継を見据えた人材育成を行う場合、行っておくべきこととしては、後継者として適切な候補者を選ぶことですが、
会社の経営において求められる根本的なこととしては、「目の前の仕事に対して真摯に取り組むこと」となります。
つまり、真摯な姿勢で業務に取り組む人こそが、後継者候補として適しているといえます。
経営者は日々重要な決断を迫られ、プレッシャーの中で業務を行うこととなりますが、
経営者の候補者には、経営者としての基本を教育し、経営者をサポートする立場の職務に就かせ、経営者としての仕事の進め方を習得してもらうことが重要です。
後継者候補に対し、事前に経営者としての仕事内容を身につける時間を確保することで、自社内における事業承継が実現しやすくなります。
参照文献:社団法人中小企業診断協会
→ 親族内の跡継ぎや従業員への事業承継の手続きと注意点についてわかりやすく解説!
知的資源の承継方法は?
知的資源を承継していくためには、知的資源を書面にまとめることが効果的といえます。
そのほか、知的資源の承継においては、後継者が経営者としての資質を高めることも大切なことです。後継者が従業員に信頼されることで、知的資源は自然な形で受け継がれていきます。
知的資源を書面にまとめる
知的資源は書面にまとめておくことが効果的です。知的資産を書面にまとめるための一例としては、「知的資産経営報告書」の作成があります。
知的財産経営報告書に記載する内容としては以下が挙げられます。
- 自社の経営理念や経営方針を紹介すること
- 事業概要で自社の業務内容を説明すること
- 自社が展開している独自のサービス
- 自社ならではの強み
- 今後の展開
つまり、自社がどのような知的資源を持っているか、ということを誰がみても一目でわかる状態にしておくことが大切です。
一口に知的資源といってもその範囲は幅広いために、承継することは難しく感じられます。
知的資源についての内容を書面でわかりやすく記載しておくことによって、知的資源の承継が容易なものとなります。
後継者が従業員に信頼されることが必須
知的資源とは先述したとおり、技術や組織力、企業のブランドなどであり、目に見えない形の資源を指しますが、
これらの資源が有効に活用されているのは、従業員の日々の頑張りがあってこそといえます。
従業員が働きやすい環境は経営者がつくりあげるものですが、言い換えるなら、経営者と従業員の間に十分な信頼関係ができていれば、企業の知的資源は維持されていくことになります。
そこで問題となるのが、今までの経営者が後継者にバトンタッチしたタイミングです。
後継者が経営者となった時点ですでに従業員に信頼される存在であれば、知的資源は引き続き維持されやすくなりますが、
新しく経営者になったばかりの頃は、従業員からの理解が得られにくい場合があります。
もし、新しい経営者が従業員から反感を持たれるようであれば、場合によっては従業員の退職につながることも考えられ、
これまで培ってきた知的資源が維持できなくなることが懸念されます。
そのため、知的資源を承継していくためには、後継者が経営者に就任したときに、信頼される存在であることが求められます。
経営理念に基づき、経営者としての経営ビジョンを明確にすることも大切であるほか、現場の声を聞きながらその声を経営に反映させていく、という姿勢も必要でしょう。
経営者として器の大きさを持つことが、結果として知的資源の承継につながっていくのです。
参照:
経産省近畿経済産業局事例①
経産省近畿経済産業局事例②
まとめ
事業承継において人的資源と知的資源を承継するためには、それぞれの資源の価値を高めておくことが効果的です。
承継する立場の人から「承継したい」と思ってもらえるようになればベストでしょう。
特に、知的資源はその内容を見える形にまとめておくことが大切です。企業の魅力を高めることが、スムーズな事業承継へとつながっていきます。