さまざまな理由から、「M&A(企業の合併と買収)」に臨む企業は多くあり、毎年膨大な数のM&Aが実施されています。
M&Aが行われることによって、買い手側企業にも売り手側企業にも少なからず影響は出ます。
しかし、影響の度合いは、代表取締役なのか、役員なのか、一般社員なのかなど、それぞれの立場によって異なるのです。
M&Aはその後の企業状況も大きく左右するため、どの企業も有益な取引を目指しています。
そこで今回は、経営者の立場から見たM&Aについて解説するとともに、経営者に対するメリット、デメリットも紹介していきます。
目次
M&Aとは?
M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略であり、合併と買収の意味を持ちます。
ビジネスの場においては、その名のとおり企業の合併と買収を指し、株式や事業の売買が行われています。
企業の合併、買収とは、経営者が持っている株式をはじめとする事業権利を別の企業が買い取るということであり、主に事業拡大を狙って行われるものです。
しかし、M&Aを行うことは簡単なことではなく、莫大なコストと労力が必要となるため、M&Aを実施する際には慎重な判断とともに、入念な事前準備が必要です。
また、有益な売買と労力の削減をするために、仲介業者に依頼をかけることが一般的であり、買収企業と売却企業の間には専門業者の仲介を挟みます。
そのため、仲介業者の能力がM&Aの結果を左右すると言っても過言ではありません。
M&Aを行うにあたり、仲介業者の選定も非常に大切です。
関連記事:M&Aとは?4つの種類と手続き・費用といった基礎的な事項をわかりやすく解説。
M&Aを行う理由
M&Aと聞くと、映画やドラマのイメージからネガティブな印象を受ける場合があります。
しかし、実際の取引は、それほどネガティブなものではなく、むしろポジティブに捉えることができます。
それは、M&Aを行うのは「事業拡大」を狙うことが目的になることが理由になるからです。
買収企業は通常、売却企業よりも、規模が大きい企業となります。
売却側の企業からすると、M&Aを経て、より大きな規模の会社の一部となります。
財務上の安定感は増しますし、買収企業からすると、新しい技術を取り入れることができるため、まさにwin-winの有益な取引になります。
このことから、M&Aはネガティブなものではなく、ポジティブな取引だということがわかります。
また、昨今の中小企業において、経営者の高齢化に伴う後継者不足が話題として挙がります。
この問題もM&Aによって、解決されるケースも多くあり、従業員の雇用を守る役目もしているのです。
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M&Aの流れ
実際にM&Aを行う際は、非常に多くの「書類の作成」が必要であり、いくつかの段階を踏んで取引を進めることになります。
「M&A専門の仲介業者」などの協力を得て、書類の作成に臨み、スムーズな取引進行が、有益なM&Aにつながります。
- ヒアリング
- プレゼンテーション
- クロージング
ヒアリング
M&A交渉を行う前に、仲介業者との間に秘密保持契約とアドバイザー契約を結んだうえで、売却側の意向の確認を行います。
M&Aにおける条件設定のためのヒアリングを行い、買収企業の大まかな選定をリスト化したロングリストと、詳細条件を加えて絞り込んだショートリストを作成します。
買収先の選定では、M&A交渉を進めることを希望する企業を選ぶことになります。
しかし、この選定が売却企業の将来を大きく左右するため、妥協をせずに詳細を確実に伝えることが大切です。
プレゼンテーション
仲介業者とのヒアリングが終わり、ショートリストの作成と選定まで終わったら、買収希望企業に対してプレゼンテーションを行います。
しかし、いくつもの企業に、売却企業の詳細な情報を提供することは、情報漏洩リスクを高めることになってしまいます。
そこで、ノンネームシートと呼ばれる書類を使用します。
ノンネームシートとは、売却企業の詳細情報を省かれた資料であり、売却企業が特定されないように配慮されたものです。
ノンネームシートを使うことにより、買収企業の買収意向を確認し、さらに細かく企業選定を行います。
ノンネームシートを使って選ばれた企業に対しては、詳細情報が記載された、企業概要書を使用し、詳細なプレゼンテーションを実施します。
ショートリストの中から、ノンネームシートと企業概要書を使って、さらなる企業選定を行うのです。
クロージング
プレゼンテーションまで終了し、買収企業の選定まで終了すると、M&Aの最終段階であるクロージングに入ります。
クロージングでは、意向表明書を用いて買収企業の買収意思の確認を行い、基本合意書を用いて、買収企業と売却企業両者の売買条件を再確認します。
買収企業側の購入意思が、意向表明書によって確認でき、基本合意書の内容に問題がなければ、デューデリジェンスを行い、売却企業に事業における問題点がないかどうかの確認を行います。
デューデリジンスでは、事業内容や財務、税務の関係書類の確認、株主や取引先の確認まで細かく行い、売却企業の健全性を確かめます。
デューデリジンスでも問題がなければ、M&A契約成立を意味する最終契約書の作成を行い、M&Aはこれで終了です。
さらに具体的な書類や契約書を結ぶ流れなどは別記事を参照ください。
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経営者の立場から見るM&Aのメリット
M&Aのメリットは事業拡大であり、M&Aを実施するほとんどの企業が事業拡大を狙った取引を望んでいます。
経営者は、自社のビジネスに新しいものを取り入れたり、得意分野の幅を広げたりすることを考えて事業に臨んでいます。
しかし、それらをゼロから作り上げるには時間やコストを必要とします。
M&Aであれば、すでに作り上げられたビジネスモデルを取り入れることができます。
経営者の立場から、コストや手間を考えると、手っ取り早く自社の事業拡大につなげることができるのです。
このように、M&Aを行うことによって、自社の事業計画を加速させ、さらなる利益獲得を狙うことができるのです。
経営者の立場から見るM&Aのデメリット
M&Aは自社の事業拡大に役立ち、利益獲得につなげることを目的の1つとして行います。
しかし、M&Aを実施したことにより不利益が生じる可能性もあります。
新しい事業展開するために、企業を買収した場合、買い取った企業が赤字を出してしまうと、その赤字は買い取った側の赤字として計上されます。
また、借入などを実施していた企業で黒字化が困難になってしまうと、買収した側の会社の資金繰りに影響が出る可能性もあります。
つまり、M&Aは事業拡大につながる反面、負債を抱えてしまうリスクもあり、それがM&Aにおけるデメリットとなるのです。
未来の業績は誰にもわからないため、確実に黒字になるということはわかりません。
しかし、企業を買収する際には、未来の事業展望を見据えて、慎重に取り組む必要があります。
例えば、短期間ダイエットで駆け上っていった「ライザップ」のM&A失敗事例などは、多くの経営者の教訓となります。
色々な失敗事例も事前に情報として仕入れておきましょう。
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- [有名な失敗事例]中小企業だけでなく大企業でも失敗するM&A。企業買収失敗の原因と対策を買い手・売り手双方の観点から解説。
M&A後の会社を売却した社長の待遇
M&A実施後、売却企業の社長は買収先企業で働く場合と、事業から退く場合があります。
例えば、経営者が高齢になり、後継者がいないことから事業を売却した場合。
任期を決めて顧問や相談役といった立場で、事業を引き継ぐことが多いです。
事業継続意思のある経営者の場合は、買収企業の子会社への出向や雇われ社長として事業を継続します。
M&Aにおいて「アーンアウト条項」というものがあります。
買収後のシナジー発揮など、未来のこと故に正確に算定することが難しい企業価値について、より実態に合った適正な評価をしやすくなると考えられ、とくに米国のM&A市場では一般的になっています。
こちらも経営者の方は交渉カードの一つとして、理解しておきましょう。
関連記事:コインチェックで話題になったアーンアウト条項とは?ポイントをメリット・デメリットとともに解説。(クロージング調整条項にも触れています)
まとめ
M&Aには、多くの手続きが必要であり、その手続きや必要書類は複雑なものになっています。
そのため、仲介業者に依頼をかけることになりますが、仲介業者選びも非常に重要です。
事業拡大を狙った買収には大きなメリットがある反面、デメリットも存在するため、慎重な取引が大切であり、取引後の事業展開も重要になってきます。
企業売却後の経営者の意思と買収企業の条件によって、事業継続ができる場合が多くあるため、自身の将来を見据えた取引を行うことができます。
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