現経営者が生きている間に後継者が事業継承を受け取る方法は二つあります。
一つ目は後継者から対価を得て有償で後継者に対して譲り渡す売買による株式譲渡。
二つ目は現経営者が無償で後継者に対して株式を譲渡する生前贈与による株式譲渡です。
一般的に親族から承継を受ける場合は無償での生前贈与になるかと思います。
しかし、無償での生前贈与であったとしても株式譲渡である以上会社法の要求する手続きを踏まなければいけません。
本日は実際に生前贈与を受ける際に必要な手順と注意点についてお伝えしていきたいと思います。
目次
承継するのであれば生前贈与が望ましい
現経営者が生存しているうちに承継のほかに遺言によって経営者が死亡した時に会社を相続する遺贈があります。
しかし、遺言の場合は死亡時に初めて効力が生じます。
関連:事業承継方法の一つ「遺贈」による相続の方法について徹底解説!
また、経営者は遺言をいつでも撤回することができます。
後に作られた自筆証書遺言の内容が優先されることになります。
つまり遺贈によって承継を行おうとすると、後継者が確実に株式を承継できるという見込みに不確実性が生じます、
すると、後継者の地位が不安定になるとともに、モチベーションに影響を及ぼす恐れがあります。
後継者の地位の安定と会社支配権についての混乱を予防するために生前贈与によって後継者に株式を想起に承継させた方がよいのです。
更に、後継者は事業承継を受動的な相続と捉えると、承継後の経営で失敗してしまいます。
後継者はいつでも自分が社長となる覚悟と経営スキルを持っている必要があります。
事業は相続されるものではなく、友好的に会社を乗っ取るという能動的な姿勢であることが望まれるのです。
株式譲渡を行う手続き
株式譲渡は会社法にのっとた手順をふむ必要があります。
関連:M&Aの会社売却・買収の種類「事業譲渡」「株式譲渡」とは?それぞれのメリット・デメリットを含めわかりやすく解説!
以下で必要な手順についてお伝えします。
株式譲渡契約の締結
まずは親族間での生前贈与だとしても株式譲渡契約書を用紙して署名・捺印をして現経営者と後継者の間で株式譲渡契約を結ぶ必要があります。
株式譲渡締結書はFormatがいくらでも存在していますので、WEBで調べた雛形を元に作成いただければ問題ありません。
法的には、口頭のみのやりとりでも当事者同士の合意が株式譲渡契約は締結されたことになります。
しかし、現経営者が痴呆におちいったり死亡したあとに他の親族との間での係争の芽を事前に摘んでおくという意味でも書面での締結が望ましいです。
株主名簿の名義書換
次に法定事項を記載した『株主名簿』を整備する必要があります。
株主名簿には会社法上以下の事項の記載が必要とされているので、名義を後継者に変換しなければいけません。
- 株主の氏名・名称+住所
- 株主の保有株式数
- 株主の株式取得日
- 株券発行会社においては株券が発行されている株式の株券番号
譲渡承認決議 (非公開会社の場合)
譲渡による株式の取得で株式会社の承認を要する定款がない会社を『公開会社』といいます。
会社法 第2条第5号
【公開会社】
その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社
つまり1株でも譲渡制限が設けられていない株式を発行している会社は公開会社となります。
公開会社の中で上場しているものが上場会社となります。
しかし、日本の中小企業の殆どは非公開会社です。
非公開会社では株式譲渡に株式会社の承認を要する『譲渡制限株式』のみが発行されています。
上場会社と公開会社と未公開会社の括りを図解すると以下の通りとなります。
定款がない場合は『登記情報提供サービス』を利用して登記情報を取得することができます。
現経営者から譲渡を受ける株式が譲渡制限株式となっている場合は譲渡承認決議を行う必要があります。
決議は取締役会設置会社では取締役会決議、取締役会非設置会社では株主総会決議での議決が必要となります。
株券の交付 (株券発行会社の場合のみ)
株券を実際に発行している会社の場合は株券を交付して初めて株式譲渡が成立します。
現在、株券を実際に発行するメリットもありませんので定款変更を行って株券不発行会社に行こうしておいた方がよいでしょう。
管理して保管するのも大変ですからね。
遺留分減殺請求には気をつけよう
仮に生前の株式譲渡を行ったとしても、後継者以外の相続人の遺留分を侵害してしまう場合、遺留分減殺請求をされる恐れがあります。
遺留分とは相続の対象である後継者以外の親族が最低限の遺産を取ることができる分のことです。
遺留分は法定相続分の2分の1を請求することができます。
例えば、現経営者は妻と子供が後継者以外に1人いたとします。
すると妻の法定相続分は2分の1で、後継者以外の法定相続分は4分の1となります。
すると、遺留分は妻が4分の1、後継者以外の法定相続分は8分の1となります。
遺留分減殺請求では上記の遺留分を上限として、他の被相続人から受け取りを要求される可能性があります。
遺留分減殺請求については、どのような場合に対象となるのか?
また対策についてはどのようなものがあるのか?
別記事で詳しく紹介しておりますので以下参考にしていただければと思います。
関連: 事業承継における遺留分減殺請求権とは?改正法を含めてわかりやすく解説する!
承継する場合は株式譲渡、最低でも遺贈は生前に行なっておこう
事業承継を行うことを考えている場合は生前贈与や最低でも遺贈を行わないと面倒な事態になります。
現経営者が両者を行わず死亡した場合、保有していた株式は相続人の共有状態となります。
ここで共有状態の株式は民放において定められた相続分に応じて分割されるわけではありません。
相続人の持分の過半数によって全株式の議決権の行使が決定されます。
結果的に相続クーデターによって売渡しの請求によって本来相続させる予定であった親族が後継者となれないといった事態になる可能性もあります。
事業承継に関しては後回しに考えずに、不測の事態に対応して早めに対応しておきましょう。
関連: 株式を相続する場合の注意点とは?売渡し請求行使による相続クーデターに気をつけよう!
承継を希望しない場合は死亡後の係争を防ぐために会社売却を実行しよう
事業を後継者に承継することを望まない場合は、現経営者の寿命が尽きるまでに会社売却を実行しましょう。
先ほど触れた通り、承継を行わず死亡してしまうと大切な家族の係争のもとになりかねません。
争いの種を予め摘んでおくためにも会社を生前に無くしておく必要があります。
しかし、廃業を行うのは、あまりにも手間がかかりますし費用も発生しています。
そこで、今注目されているのが事業承継を行う目的での会社売却です。
事業を拡大するために廃業の危機に陥っている会社をM&Aで併合したいと考えている会社は数多く存在するのです。
赤字を出し続けている会社であっても売却することは可能です。
会社という形があるものではなく、現金化をしておくことで親族が円満に生活できる基盤を整えておきましょう。
まとめ
会社を生前に親族に贈与する場合であっても会社法に則った手続きが必要となります。
生前贈与しても残りの被相続人から遺留分減殺請求権を講師される恐れがあります。
また、生前贈与や遺贈を行わなかった場合は親族での係争や、場合によっては相続クーデターが発生する可能性もあります。
事業承継を行うかどうかを含めて、後回しにせずにできるだけ早く承継か売却に踏み切りましょう。