M&Aの基礎知識

コインチェックで話題になったアーンアウト条項とは?ポイントをメリット・デメリットとともに解説。(クロージング調整条項にも触れています)

 

「価格調整条項とはなにか?」

「価値決定の難しいM&A、契約後の変動にはどう対応するのか?」

 

M&Aを行う場合、譲渡側企業と買収側企業とが専門の仲介会社を通すなどして交渉を進め、買収価格や条件のすり合わせを図ります。

 

条件面の折り合いがつけば、正式に最終契約を結ぶこととなります。

しかし、M&Aでは最終契約の締結をもって手続きが終了するわけではありません。

 

最終契約で、譲渡側企業の保有資産や雇用契約について引き継ぎを開始します。

実際にこれらを完了させるには、一定の時間を要するでしょう。

 

  • 株式など資産の譲渡・移転
  • 業法上の許認可取得
  • 各種権利義務についての移管手続き
  • 最終的な書類の確認
  • 譲渡代金の支払い など

 

ここまで終えて、買収側企業へと経営権を移転させるための諸手続きがすべて完了したことをクロージングといいます。

通常、最終契約からこのクロージングまでには、少なくとも1カ月程度の期間がかかっています。

 

採用するM&A手法やケースによって、かかる期間はかなり違ったりもします。

この一定期間に譲渡対象となる企業の価値が変動するということももちろんあり得ます。

 

そのため、価格について変動分をみて後に調整するという発想が出てきます。

この仕組みを条件としてつけると定めたものを「価格調整条項」というのです。

 

具体的には、運転資本や有利子負債などについて、取引契約日の財務数値とクロージング日や契約実行日の財務数値を比較。

その差額を買収価格に反映させる内容を定めたものとなっています。

 

クロージングまでの変動以外でも、何らかのあらかじめ定めた2時点間における対象会社の価値変化を、買収価格に反映させるという方式をとる場合。

それは価格調整にあたり、価格調整条項で定めるところとなるでしょう。

 

企業価値の変動を制約するメカニズムを設け、基準日時点での財産価値で固定し、こうした事後的な価格調整を行わない方式とするケースもあります。

しかし、この価格調整条項をもって変動させる場合には、どこまでの範囲に適用させるかなど厳密に決定し、双方がその内容を正しく理解しておくことが重要です。

 

そこで今回はM&Aにおける価格調整事項を取り上げ、「アーンアウト条項」や「クロージング調整条項」の事例などについて、分かりやすく解説していきます。

 

アーンアウト条項とは?

まず「アーンアウト」についてみていきましょう。

M&Aにおけるアーンアウトの手法はしばしば用いられます。

 

最近では、老舗マネックスグループが、仮想通貨の巨額流出問題を引き起こした交換業大手であるコインチェックを買収。

完全子会社化した際に話題となったため、報道で耳にした記憶がある方もあるのではないかと思います。

 

マネックスグループは6日、仮想通貨の流出がおきた交換業者のコインチェック(東京・渋谷)を36億円で完全子会社化すると発表した。ただ実際の買収額はこれにとどまらない可能性が高い。コインチェックは今後の業績予想が難しく、追加で買収対価を払う仕組み「アーンアウト条項」が定められている。

「アーンアウト条項」は、コインチェックの21年3月期までの3年間の純利益合計額に対して2分の1を上限に追加で取得費用を支払う取り決めだ。米IT(情報技術)企業の買収などで、業績の予想について互いの合意が難しい場合、買い手と売り手でこうした契約を結ぶケースがある。国内上場企業が企業買収でこうした契約を取り交わすのは珍しい。ところが、この条項が適用されるのはいつか、どんな条件ならば、いくらの追加費用が発生するのか詳細の条件については公表していない。

 

引用元:日経新聞「マネックスのコインチェック買収 36億円で済むのか」

 

 

具体的にアーンアウトとはどのようなものなのでしょうか?

 

 

買収といえば、支払いは一括というイメージがあるかもしれません。

M&Aでも、基本は一括払いです。

 

しかし例外もあり、アーンアウトはそのための条項、一括で支払うのではなく、分割で支払う契約とするものです。

 

価格調整の観点でいえば、まず基本ベースの額を買収時に支払います。

 

その後、一定の条件にかけ、利益をもたらしていると認められた度合いから、調整分にあたる金額を上乗せするかたちで支払うものといえます。

 

アーンアウト条項をつけることは、買収後のシナジー発揮など、未来のこと故に正確に算定することが難しい企業価値について、より実態に合った適正な評価をしやすくなると考えられ、とくに米国のM&A市場では一般的になっています。

 

もちろん、仕組みとしてのメリット、デメリットの両方が、譲渡側、買収側の双方に考えられます。

十分に注意して検討すべきですが、今後は日本国内でも、さらに認知度や普及率が高まっていくと見込まれます。

 

譲渡側企業にとってのアーンアウトのメリット

譲渡側企業にとってのアーンアウトのメリットは、まず売却を決めやすくなる可能性があることです。

 

詳しくは後述しますが、買収側企業のリスクを減らせるため、買収に関心を示し、手を挙げてくれる企業が必然的に多くなると考えられます。

 

候補が増えれば、より良い条件を引き出したり、選択をしたりすることがしやすくなり、理想的なM&Aに近づく可能性がぐっと高まるでしょう。

 

2点目のメリットとしては、「2年後までに営業利益が~億円達成となったら、追加で~億円を支払う」といった具体的条件がつくものとなるため、達成された場合に追加として多額の資金を得られることが挙げられます。

 

一括で支払う通常のM&Aでは、思ったより業績やブランド価値が認められないなど、企業価値評価が低く算定されても、見直しの交渉は困難を極めるケースは多いです。

 

そのまま契約となれば、その後どんなに業績伸長に寄与したとしても、譲渡側企業に経済的メリットが還元されることはありません。

 

しかし、アーンアウト条項があれば、追加のインセンティブとして、後の買収側企業における業績に連動した金額を受け取れます。

当初の想定以上に対価を得られる可能性も出てきます。

 

買収企業の経営に関与する関係が続くなら、その動機付けにもなり、結果を出した分だけ多くのキャッシュが手に入ることとなるでしょう。

 

譲渡側企業にとってのデメリット

デメリットとしては、売却時点で受け取れる資金は少なくなってしまうことが挙げられます。

またM&Aの契約として、内容がどうしてもやや複雑になってしまいますから、その交渉や手続きに要する手間や負担が増えることも、留意しておかねばなりません。

 

条件が適切な評価期間にかかるもので、一方的にビジネスモデルを変更されたり、譲渡側からはコントロール不能で、意図的にその要件を満たさないようにされうるような成果目標を含んで設定されたりしていないか、注意しておくことも重要です。

 

買収側の企業が、再売却に踏み切った場合はどうするかなど、さまざまな可能性を考慮し、適宜制約を設けて、後に支払われる金額への反映評価が、適正な基準でなされる状態をきちんと確保しましょう。

 

確認を怠ると、結果的に買いたたかれたという事態にもなり得ます。

 

買収側企業にとってのメリット

買収側にとってはどうでしょうか。

何といっても、最大のメリットは将来が見通せないまま、価値以上に対価を支払ってしまうリスクを防げる点にあるでしょう。

未来のことは誰にも分かりません。

 

いざ取り込んでみると、思うように業績が伸びなかったり、想定外の問題を抱え込んだりしてしまう可能性もあります。

 

一括払いでは、見込み資料による博打買い的な要素が大きくなってしまいがちですが、アーンアウト条項をつけることで、リスクを最小限に、残りは業績次第とする、安全かつ効率の良い買収が可能になります。

 

アーンアウトは、M&Aの大きなリスクヘッジとして機能するのです。

 

第2に、譲渡側企業の経営者から事業を承継するにあたり、その経営者のモチベーションを維持させられるメリットがあります。

一定期間、経営に関与してもらうこととしても、買収側の業績アップのため、積極的に努めてくれるとは限りません。

 

しかしただでは難しくとも、そこにアーンアウトでインセンティブがかかっていれば、状況はまったく違ったものとなるでしょう。

こうしたリテンション効果で、確実に買収メリットを最大化して享受できるようにする、シナジー発揮につなげやすくすることができると期待されます。

 

デメリットはおよそありませんが、強いて挙げるならば、やはり譲渡側と同様、契約や交渉が複雑になりやすく、その分、手間がかかりうるということでしょう。

しかし、上記のようなリスク対策と業績への貢献メリットを考えれば、その手間はごくわずかなものです。

 

近年は、市場の変化やニーズの多様化、業界再編などで、先の見えない不確定要素が大きな時代となっており、イノベーション創出を目指した攻めるM&Aも増加しています。

M&Aの買収側企業にとって、譲渡側企業の事業は異業種であったり、新規開拓分野であったりすることがしばしばです。

 

こうした中、リスク軽減に有効なアーンアウト条項は、設けておきたいものと強く認識されるでしょう。

よって、成長途上のベンチャーを買収する際などは、とくに高確率で採用されるようになっています。

 

また先述のコインチェックのケースでは、同社が大きな事業利益を生んでいるため、買収するマネックスグループにとっては魅力的でした。

しかし、NEMの不正流出問題から訴訟費用などが莫大にかかってくる可能性もあり、リスクの高さがネックとなっていました。

 

またコインチェックがみなし業者であったため、金融庁の判断によっては、サービス事業を停止しなければならなくなることも考えられました。

 

そこでアーンアウト条項をつけ、マネックスグループがこれらのリスクヘッジを図ったのです。

 

コインチェック側も、その後の実績次第で、さらにキャッシュを得られる道が確保され、互いに損のない両者納得の契約となりました。

このような背景があると、アーンアウトはとくに有効に機能します。

 

クロージング価格調整とは?

アーンアウト条項を設定するM&Aがある一方で、別の価格調整方法として、「クロージング価格調整」という手法を用いるケースもあります。

こちらはどのようなものなのでしょうか。

 

クロージング価格調整とは、M&Aの最終的な合意契約を締結した時点と、クロージングを迎えた時点との2時点間における該当企業の「財務状況変化」を反映させる調整をいいます。

 

例えば「株式価値」を算定する場合、契約締結時には、直近の会計処理に基づく計算書ベースで取引価額を決めるなどするのが一般的です。

しかし、実際にはその時点からも株式価値の変動は続きます。

 

関連記事:企業価値評価とは?基礎知識とそのメリットを徹底解説。

 

そのため数カ月後など、一定期間が過ぎたクロージング日には大幅に評価額が変わっているということもあり得ます。

 

株式の所有権が買収側に移転するのは、あくまでも全過程が完了したクロージング日です。

企業価値が変化しているなら、その時点での評価で価額を決めるのが、最も合理的というものです。

 

そこで、クロージング日にあらためて決算書を作成し、価値を再評価、契約締結時に基準とした数値と比較し、その差額を後日に決済することでより適正な価格での取引へと調整を図るのです。

 

これがクロージング価格調整です。

 

企業価値全体に適用する場合、時価純資産法なり、DCF法なり、採用した評価手法があるはずです。

しかし、いずれにおいても、基準として定義した貸借対照表の変動をもって調整を試みるのが通例になっています。

 

関連記事:時価純資産法とは?DCF法との違いまで分かりやすく解説。

 

経営権が完全に移った時点での企業価値を正しく反映した価格で取引でき、より合理的で公平性が高いと考えられるメリットがあるほか、譲渡側企業にクロージング日までその価値を維持・向上させる意欲をもたせられるメリットがあります。

 

仮にクロージング価格調整を設けず、最終合意契約の締結時点で価格を決定、固定させたとして、そこから譲渡側企業が内部で不要な配当や支出を繰り返すなどし、現金資産などを引き出してしまっていたらどうでしょうか?

 

買収側がM&A完了で実際に手にした時には、大きくその企業の価値が低下していた、明らかな“支払いすぎ”、損失を被る取引になっていたということがあり得てしまいます。

こうした意図的な価値毀損を防ぎ、買収側が負うリスクを軽減する利点もあるのです。

 

また中小企業を対象としたM&Aの場合、会計処理が大企業などで求められる厳密な会計基準に基づいて行われてはいないケースも多く、税務ルールに基づいた簡易的な処理、いわゆる税務会計になっていることがよくあります。

 

こうした場合の税務会計では、減損損失や資産除去債務など、税額の算定に関わらない会計処理が省略され、正しく損益が算定されていない可能性があります。

 

クロージング価格調整などの価格調整条項は、こうした事例でより正しい会計処理結果に基づいた企業価値の算定、その価額によるM&A成立に寄与すると考えられます。

 

一方で、この“正しい会計処理”という基準や運用も一義的でなく、ある程度の幅があり得るため、その点でトラブルを生むリスクもあります。

取引の常として、譲渡側、売却側はより高く売ろうとし、買収側はより安く買おうとします。

 

結果、価格調整条項の仕組みが、知識のある側を利するものとして利用されがちなのです。

 

まとめ

今回は価格調整条項にスポットを当て、主なアーンアウト条項とクロージング価格調整について、その概要やポイントをご紹介しました。

いずれの手法も、譲渡側、買収側のそれぞれがしっかりとした基礎知識をもち、事例に応じた適用を行えば、双方に納得とメリットをもたらす有用なものとして機能します。

 

しかし丁寧な確認作業、内容の詳細なすり合わせと合意形成がなされなければ、より大きなトラブルを招くもとにもなってしまいます。

 

事例により、さまざまな背景を抱えるM&Aだからこそ、知識をもとに工夫し合い、円満な取引の完了を目指しましょう。

 

参照文献:

 

関連:M&Aとは?4つの種類と手続き・費用といった基礎的な事項をわかりやすく解説。

 

 

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