M&Aにおいて、会社法が改められたことにより、新たに「交付金合併」という手段を用いることができるようになりました。
「交付金合併」とは、どんな意味を含む合併なのか、M&Aで活用するメリットや注意点、そして事例についても触れて解説します。
目次
交付金合併とは
交付合併とは「吸収合併」において対価を金銭とすることが認められたものです。
「合併」とは、複数の会社が一つの会社に統合されることを意味する言葉です。
「A社がB社を吸収合併した」と表現されることが多いです。
「吸収合併」とは、読んで字のごとく、企業が企業を丸ごと取り込みます。
取り込まれた企業は、企業を解散し、現時点での資産・負債を吸収する側の会社に移行します。
一般的な例として、大手企業がベンチャー企業を取り込むなどといった、規模の大きい会社が規模の小さい会社を取り込む例が多く見られます。
グループ企業の親会社が子会社を取り込むことで、子会社にかかるコストの削減や指揮命令系統が統一されたことによる事業のシナジー効果などが期待できます。
「吸収合併」では、吸収される側の企業は、強い言葉を用いると「消滅」することになります。
当然のことながら、吸収される会社としては無条件で消滅を受け入れる訳にはいきません。
買収元の企業は何らかの形で買収先に対価を支払うことになります。
その際には、株式を割り当てる合併が一般的です。
しかし、M&Aの件数増加により、グループ再編など事業統合する手段が軟化し、金銭の支払いを以て合併を成立させるケースも出てきました。
これが「交付金合併」と呼ばれるのです。
この形でM&Aを実行した場合に支払われる金銭は、名称の順番が入れ替わり、「合併交付金」と呼ばれることもあります。
交付金合併は、平成19年度の会社法改正によって実現できるようになったM&A手法であるため、現在のところ、あまり多くの事例を見つけることはできません。
会社が他の会社を吸収合併する際に、消滅会社(被合併会社、合併により消滅する会社)等の株主に対して交付される財産(対価)は、従来は、原則として存続会社(合併会社、合併後も存続する会社)等の株式しか認められていませんでした。
しかし、会社法では、存続会社等の株式に限定せず、現金のみを交付する「現金合併」や、存続会社の親会社の株式等を交付する「三角合併」も認められることとなりました。
ただし、この対価柔軟化に関する規定は、企業が買収の対象となるリスクも高めるため、防衛策を整備する期間が必要とする産業界からの要望により、施行が1年先送りされ、平成19年5月以降となります。
しかし、合併の自由度が飛躍的に高まったことは事実です。
今後はより多くの業種間で交付金合併が行われることが予想されています。
交付金合併のメリット
さまざまな合併方法の中から、交付金合併を選ぶことによって得られるメリットをご紹介します。
一般的な合併により生じるデメリットを除外できることもポイントになります。
まずは交付金合併の魅力について、正確に押さえておきましょう。
合併される会社に残る株主を一掃できる
会社を合併する際の対価として株式を割り当てると、吸収されて消滅する会社の株主にも株式を交付することになります。
これがしばしば問題を引き起こす火種になります。
仮に合併に反対していた株主が一定の株式を保有するとなれば、会社にとっては扱いが難しくなります。
ある意味で不都合な株主を抱えることになってしまうのです。
しかし、交付金合併を取り入れることによって、この問題は完全に排除することが可能になります。
交付金合併では、株式ではなく、金銭を消滅する会社の株主に割り当てて清算することになります。
経営方針にネガティブな意見を持つ株主が会社に残るという問題は起こり得ません。
こういった特徴を持っているため、少数株主を一掃して再編を図りたいと考える経営者からも、交付金合併が支持される傾向にあります。
既存株主の株式保有比率に影響が及ばない
合併の対価として株式の交付を行うと、吸収した会社の株主に向けて自社株を発行することになります。
そのため、既存株主の保有比率が大きく変動することになります。
そうなれば既存株主が不利益を被ることは必然であり、合併をきっかけにして、既存株主との関係性が悪化してしまう可能性についても考慮しなければなりません。
そのような問題も、株式の割り当てではなく、キャッシュを使った清算でカバーできる交付金合併なら回避することができます。
合併により、株主に対して直ちに不利益を感じさせることがなくなります。
健全な会社経営を持続させる上でも大きなメリットになるのです。
交付金合併により生じるデメリット
交付金合併の概要やメリットを見れば、会社にとっても既存株主にとっても都合がよく、理想的なM&Aにおける合併手法のように感じられます。
しかし、目線を少し変えてデメリットを探した場合、どのような項目が考えられるのかも知っておき、発動の有無を慎重に検討するように心がけましょう。
割り当てを行うためのキャッシュが必要になる
通常の吸収合併では、株式を交付して吸収します。
しかし交付金合併はそれを避けた合併である以上、大前提として、対価として支払うための現金が必要になります。
自社保有しているキャッシュを捻出するのか、新たに借り入れなどで資金調達するのかなど、検討をしなければなりません。
吸収合併に向けて必要となる資金は、相手企業の資産価値や経営状況等によって異なります。
この資金を準備できなければ、買収を完了させることはできません。
必要となる資金の計算や準備を正確に進めるためには、仲介業者などのサポートを受け、無理のない範囲での舵取りを行うことが経営者に求められます。
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非適格合併と判断され税負担が増す恐れもある
企業の合併を行う際には、組織再編税制の適用を受けることになります。
その都度適格合併か、非適格合併化の判断が下されることになります。
適格合併と判断された場合には、合併により税金が発生することがありませんが、交付金合併は、原則として非適格合併として取り扱われることが一般的です。
そのため、株式交付によって実施する合併とは異なり、多額の税負担を強いられる可能性が高くなることをデメリットとして覚えておかなければなりません。
例外として適格合併の範疇に収められるというケースも存在します。
しかし、素人判断で的確か不適格化を判断することは危険であるため、避ける必要があります。
参考:組織再編税制に関する資料
かつて行われた交付金合併の事例
これまでの歴史の中で、実際に行われた交付金合併の事例について調べ、実行した企業についてまとめていきます。
決して多くのサンプルが出揃っている訳ではありません。
しかし、大企業が戦略の一環として、この手法を用いていることも理解することができるはずです。
積水ハウス・リート投資法人による事例
2018年、積水ハウス・リート投資法人では、積水ハウス・レジデンシャル投資法人との吸収合併を成立させ、この際の対価として、合併交付金を支払っています。
両社の合併後は、住居やオフィスビル、そしてホテルなどを投資対象とした総合型のREITとしてリニューアルを果たし、新規事業の開拓にも熱心です。
この合併によって生じた合併交付金の総額は、30億円以上にも上っており、積水ハウス・レジデンシャル投資法人における最終の株主名簿に記載された人物に支払われました。
出典元:合併について
ユナイテッド・アーバン投資法人による事例
2010年の事例としては、ユナイテッド・アーバン投資法人と、日本コマーシャル投資法人の間で行われた交付金合併を取り上げることができます。
日本コマーシャル投資法人は、従来までのスポンサーだったパシフィックホールディングスの会社更生法申請に伴い、新しいスポンサーを探していたという背景を持っていました。
そこに目を付けたのが、ユナイテッド・アーバン投資法人で、日本コマーシャル投資法人を吸収合併する形を取り、日本コマーシャルは同年6月に上場廃止となっています。
この吸収合併では、日本コマーシャル投資法人の最終株主に対して、合併交付金を交付するという形で決着がつけられる形となりました。
結果として、ユナイテッド・アーバン投資法人の資産価値は急上昇し、2010年からの10年間で株価が2倍以上にまで膨れ上がるなど、継続的な成長を果たすことに成功しています。
ユナイテッド・アーバン投資法人(以下「UUR」といいます。)と日本コマーシャル投資法人(以下「NCI」 といいます。)は、平成 22 年 4 月 22 日付「投資法人の合併に関する基本合意書締結のお知らせ」にて公表 のとおり、両投資法人の合併について、投資法人合併に関する基本合意書(以下「本投資法人合併基本合意 書」といいます。)を締結いたしました。
本投資法人合併基本合意書に基づきこれまで誠実に協議を継続し た結果、両投資法人は、本日開催のそれぞれの投資法人役員会において、平成 22 年 12 月 1 日を効力発生日 として両投資法人が合併すること(以下「本合併」といいます。)について決議し、本日付にて合併契約書 (以下「本合併契約」といいます。)を締結いたしましたので、下記のとおりお知らせいたします。
まとめ
吸収合併における手段の一つである交付金合併は、吸収される企業に対して株式の代わりに金銭を提供するという手法のM&Aで、多くのメリットが存在しています。
事例として取り上げた企業が用いた手法やその後の実績、そして想定されるデメリットも参考にしながら、会社にとって最も有益なM&Aの手法を模索しましょう。
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