近年、人材業界内で事業が再編されてきています。
この流れは人材業界だけではありませんが、M&Aと呼ばれる積極的な企業買収や併合が進んでいます。
とくに近年では、後継者問題で会社を畳んでしまう企業を存続させるためや、既存ビジネスの強化や新事業の開発をM&Aに求めていることが多くあります。
ここでは、人材業界におけるM&Aの動向について、人材業界全体の流れや取り巻く環境、業界のメインプレイヤーの動きについて実際の事例を踏まえながら、それぞれについて詳しく解説していきます。
人材業界とは
人材業界は、現在企業の業績拡大や訪日外国人の対応、現在の売り手市場などを反映し、人材の需要は非常に高くなっています。
しかし、人手不足は非常に深刻となっています。
厚生労働省の職業安定局雇用政策課が発表している有効求人倍率について、2019年12月に公表された有効求人倍率は1.63倍となっております。
第二次安倍政権となってから、また直近1年間も非常に高い水準で推移しています。
とくに法律の改正により、派遣型社員と呼ばれる有期型の雇用から、いわゆる正社員と呼ばれる無期雇用への転向を進めようとする動きも始まりつつあります。
さらに、HRテックと呼ばれるクラウド・人工知能などを利用した、今まで以上に付加価値の高いサービスを提供する企業も増加傾向にあります。
一般的には、人材派遣、求人広告、職業紹介、人材紹介、技術者派遣、製造業派遣、製造業請負などに分類され、さらにこれらがHRテックと呼ばれる、人事採用、定着支援、業務改善などのサービスも相まって、めざましい発達が見られている分野ともいえるでしょう。
矢野経済研究所の調査では、この傾向は好況期にサービス需要が縮小する再就職支援業市場を除いて、この傾向が顕著であることが触れられています。
これには、2013年と2015年の労働者契約法、労働者派遣法の改正が影響しています。
前者は5年以上の勤務で原則として無期雇用へ転換することが定められ、後者は派遣期間の制限を事実上撤廃することが定められています。
このことから、人材業界だけではなく、人材の流動性が高まっています。
国内の人材系企業としてもっとも有名なのは、リクルートホールディングスです。
人材派遣だけでなく、リクナビなどの職業紹介を行っています。
さらに、人材派遣として有名なのがパソナやパーソルといった企業です。
海外では、アデコやランスタッド、マンパワーグループといった企業です。
1960年代にマンパワーグループが日本で初めて人材派遣業を行ったことが、この業界の始まりともいえます。
それでは、この人材業界で発生したM&A案件に関して、確認していきましょう。
国内人材業界のM&A案件
ここからは、人材業界のM&A案件について先に列挙した企業について、それぞれ解説を行っていきます。
リクルートホールディングス
リクルートホールディングスは、直近で2019年7月に英国の「Blackstone Point」社を買収しています。
このBlackstone Point社は「ClickIQ」というAI技術を活用した、求人広告最適化プラットフォームを提供しています。
当社は、当社の 100%子会社である Indeed Ireland Operations Limited (本社:アイルランド、ダブリ ン)を通じて、英国未上場企業 Blackstone Point LTD(以下、Blackstone Point 社)の発行済全株式 を取得することを決定し、最終契約書を本日締結しましたので、下記の通りお知らせします。
本件に関するM&Aとして最大のシナジーが得られるサービスが、リクルートホールディングスの保有するサービス「Indeed」であることが、公開したIR資料の中でも触れられています。
このIndeedについても、2012年にリクルートが買収した企業です。
なお、買収金額は非公開です。
このM&Aにより、リクルートホールディングスはドメスティックの人材分野から、デジタル事業や海外事業へのシフトを進めており、2018年にもGlassdoorを約1,300億円で買収しています。
結果、現在では国内と海外の売上比率はほぼ半々となっています。
これらM&Aから見えてくるのは、海外企業の買収によって、デジタル分野へのシフトを進め、さらに国内だけではなく、グローバルを見据えたM&Aといえるでしょう。
さらに、とあるインタビューでIndeedの買収について、デューデリジェンスを行ってから約1ヶ月で買収を行ったといわれています。
このスピード感ある対応もリクルートだからこそできたことなのかもしれません。
パソナグループ
パソナグループは2018年にNTTデータの子会社で人材派遣事業を行っていた「NTTデータマネジメントサービス」の、人材派遣事業を「吸収分割」するM&Aを行いました。
関連記事:吸収分割とは?大企業による事例のほか、魅力やデメリットも交え詳しくご紹介。
買収金額は非公開となっています。
本日、株式会社パソナグループ(本社:東京都千代田区、代表取締役グループ代表 南部靖之)及び当社は、株式会社NTTデータの子会社であるNTTデータマネジメントサービス株式会社と、同社の人材派遣事業を吸収分割により承継する基本合意書を締結いたしました。
これに伴い、当社はNTTデータマネジメントサービス株式会社より人材派遣事業を承継し、NTTデータグループをはじめとするお客様のベストパートナーとして、パソナグループとの連携のもと、多様なご要望にお応えできる人材ソリューションをご提供してまいります。
また、同社より承継するスタッフには、幅広い就業機会をご提供するとともに、研修やキャリアコンサルティングを通じて、個々のスキルアップやキャリア形成を支援してまいります。
パソナグループは、人材派遣事業だけではなく、教育・研修サービスといった事業を行っており、所属スタッフにも研修講座の受講などのキャリアアップを図れることを強調しています。
複数の企業で保有している、人材派遣事業を行う部分のみを吸収することで、その企業のもつノウハウをパソナグループが保有し、間接的にも教育・研修の質を高めていっているといえるのではないでしょうか。
パーソルホールディングス
パーソルホールディングスは2018年にアヴァンティスタッフを買収しています。
この企業は、ヒューリックや丸紅、芙蓉総合リースなどが大株主として登録されていることからもわかるとおり、金融や商社などに強みをもっている企業です。
買収金額は非公表となっています。
この買収のIR資料で触れられているのは、パーソルホールディングスは「昨今の顧客企業や求職者のニーズの高度化・複雑化、さらには国内における労働人口の減少や関連法規の改正、AI・RPA などの技術革新などに対応すべく、M&Aを行った」ということです。
事業基盤の強化として、ニーズの高度化や複雑化に対して、専門性を高めることで対処していくという方針のようです。
1.株式取得の目的
当社は、「雇用の創造」「人々の成長」「社会貢献」の経営理念のもと、グループビジョンである「人 と組織の成長創造インフラへ」の実現を目指しております。
また、昨今の顧客企業や求職者のニー ズの高度化・複雑化、更には国内における労働人口の減少や関連法規の改正、AI・RPA 等の技術革新 等に対応すべく、事業基盤の強化に取り組んでおります。
一方、アヴァンティスタッフは、1984 年9月設立の日本キャリエール株式会社と 1986 年4月設立 の丸紅パーソネル・サポート株式会社の2社が 2002 年 1 月に合併して誕生した会社となります。
その設立背景から株式会社みずほ銀行や丸紅株式会社といった芙蓉グループとの関係性が深く、これら芙蓉グループ各社の経営方針や組織風土・業務内容等を熟知し、品質の高い人材サービスを提供 しております。
当社は、アヴァンティスタッフの企業価値を高めることを目的に、ヒューリックと同社株式の譲 受に関する協議を進め、この度同社株式の 51.2%を譲受することで合意しました。
また、その他の 複数の株主とも譲受の協議を行い、計 92.5%の同社株式を取得することといたしました。
本件により、当社とアヴァンティスタッフは、当社の求職者の集客ノウハウを中心とした経営基 盤と、アヴァンティスタッフが培ってきた芙蓉グループを中心とした顧客基盤、更には金融事務や 貿易事務等専門職種への対応ノウハウ等を融合することで、同社の更なる企業価値の向上を共に目 指すことができるものと考えております。
その例として考えられるのが、パーソルホールディングスが2019年4月に買収した、富士ゼロックス総合教育研究所です。
この買収時のIR資料には「顧客ニーズが高まっている人材育成・組織開発のソリューション」と「労働力不足の深刻化、グローバル化に取り組まれる顧客」について書かれています。
これにより教育・研修を行う企業をM&Aしたことで、パーソルの保有している人材や組織、リソースの中で相乗効果を狙い、ビジネスの機会を拡大しようとしているといえるでしょう。
パーソルホールディングスは、1973年のテンプスタッフ(現パーソルテンプスタッフ)創業に始まり、人材派遣サービスを中核にして人材紹介、求人メディア運営、ITアウトソーシング、エンジニアリングへ事業を拡大、さらに組織・人事コンサルティング、教育研修に至るまで、幅広く総合人材サービスを提供してまいりました。
グループの総力をあげて「はたらく」に関する課題解決に向き合う中で、近年ますます顧客ニーズが高まっている人材育成・組織開発のソリューションは、グループにとって重点的な戦略投資事業と捉えております。
今後は、労働力不足の深刻化、グローバル化に取り組まれる顧客に対して、人材育成・組織開発の領域により一層充実したサービスを提供し、貢献したいと考えておりました。
一方、富士ゼロックスは、1989年に当社の教育事業部を母体に、富士ゼロックス総合教育研究所を設立して企業向け人材教育事業へ参入し、富士ゼロックスおよび関連会社における人材教育や人事制度改革支援などの豊富な経験をベースに、多くの顧客企業に実践的な人材教育や、そのノウハウを提供してまいりました。
さらに、最近の顧客企業におけるニーズの多様化に応え、顧客提供価値を最大化するべく、今後の富士ゼロックス総合教育研究所の事業展開について検討を重ねてまいりました。
以上を背景に、パーソルホールディングスと富士ゼロックスは、富士ゼロックス総合教育研究所の発行済株式100%を、富士ゼロックスからパーソルホールディングスへ譲渡することで合意いたしました。
富士ゼロックス総合教育研究所が創業以来培ってきた人材教育ノウハウと、パーソルグループの持つ人材・組織に関する幅広いソリューションや豊富なリソースとの間でシナジーを発揮し、さらに高い価値のサービス提供を通じ、顧客企業のビジネス拡大へ貢献していきます。
まとめ
ここまで国内の人材業界におけるM&Aについて解説をしてきました。
積極的なM&Aを行っていて、また最新のテクノロジーによって大きく変動しているこの人材業界においても、デジタル化や海外事業の強化は喫緊の課題であるということが理解できたのではないかと思います。
海外事業の強化などを自社が1から手掛けることは、場合によって事業の失敗などによって多額の損失を発生させてしまうことや、ビジネス上の商習慣といったやり方について必ずしもうまくいくとは限りません。
その中、M&Aでノウハウや知識をフル活用することで円滑に事業を強化し、さまざまな事業を執り行うことが現在の企業に求められていることともいえるでしょう。
現在のM&Aの案件について積極的に確認し、また大手企業の動きに合わせて、自社に求められる分野の強化などについて、自社でもM&Aなどを検討してみてもよいかもしれません。