企業の買収に関連する用語の一つであるLBOは、M&Aの手法の一種として用いられることが多く、経営者クラスであれば知っておくべき用語といえます。
リスクの少ない手法として取り扱われることも多いLBOですが、具体的にはどのような手法であり、どんなメリットを得ることができるのでしょうか。
LBOを活用して生じるかもしれないデメリットも交えながら、LBOについて解説し、これまでに行われたLBOの事例にも触れていきます。
目次
LBOとは一体なにか
LBOは「Leveraged Buyout(レバレッジ バイアウト)」の略称です。
レバレッジとは「てこ」、バイアウトは「買収」という意味になります。
よって日本語では「企業買収」となります。
以下、日本政策投資銀行の定義をお伝えします。
M&Aの形態の一つで、借入金を活用した企業/事業買収のことを指します。一定のキャッシュフローを生み出す事業を、借入金を活用して買収することで、買い手(多くの場合はエクイティを提供するスポンサー)は少ない資金で事業・企業を買収することができます。借入金を梃子(lever)として、投資金額を抑えることで買い手のリターンの極大化を図ることから、この名がついています。
引用:政策投資銀行
レバレッジという言葉はFXなどの取引においても多用されていますが、てこの原理のように少ない力で大きなインパクトを加えるという意味からこの言葉が用いられています。
つまりLBOという言葉は、小さな資金を使って、大きな企業の買収を行うという意味合いも含まれています。
借入金を使って企業を買収することがLBOの特徴
それでは一体「小さな資金」とは何を意味しているのでしょうか。ここで表される小さな資金とはあくまでも「自己資金」という意味合いになります。
企業を買収するために足りないお金をどこから調達するのかといえば、それは金融機関からの借入金になります。
ただし、LBOを実施するに当たって借入金を返済するのは、買収する側の企業ではなく、買収された側の企業に限定されるのが特徴です。
たとえ買収された企業が、借入金の返済を続けることが不可能になったとしても、買収した側が残債を返済する義務はなく、リスクが発生しません。
そのため、自己資金が少ない企業でもLBOを仕掛けることは比較的容易であり、しかも自社と比べて数倍という規模の企業を買収することも可能になるのです。
LBOの基本的な流れ
LBOを実施して企業を買収する場合、まずはSPCと呼ばれる特殊な会社を設立し、SPCを経由して対象となる企業の株式を取得します。
買収資金が足りなかった場合には、買収対象の企業が持つ資産を担保にすることが普通で、これを元手に借金をし、買収を実行するのが第二段階です。
そしてSPCと買収先の企業を合併させて非上場企業化させ、買収された企業が借入金の返済を行いながら、経営状況の改善を目指していきます。
LBOで買収する側のメリット・デメリット
買収する側のメリット
買収する側としては、自己資金が少額でも大きな企業を買収することができ、経営状況が改善すれば大きなリターンを生み出せる企業を所有できるメリットがあります。
仮に5億円の企業価値を持つ企業を2億円で買収し、数年後に企業価値が7億円に上昇したところで売却すれば、5億円の利益を生み出すことができるのです。
しかもLBOの買収で使う借入金について、買収する側の企業に返済義務は生じませんから、LBOを行う上で生じるデメリットは極めて限定的だといえます。
正確には、民事再生法を適用する場合に限り買収する側にも責任が問われる可能性があります。
しかし、通常の返済時にはそれ以外のシチュエーションでは返済義務がありません。
買収する側のデメリット
買収する側にとっては借入金の返済義務がありません。
しかし、買収先の企業はLBOによって借金を背負うことになるため、事業が暗転してしまう可能性は皆無ではありません。
しかもLBOによるローンは高金利であることが普通ですので、返済に苦慮してしまうリスクがあることも考慮しながら買収先を選ばなければならないのです。
ある日突然、経営者に借金を背負わせるキッカケを作る役回りになることから、良心の呵責を感じてしまうという経営者が一部に存在するという事実もあります。
また、買収先の企業の経営再建を失敗させてしまった場合には、企業の価値が大幅に低下し、赤字を被ってしまう可能性も考えなければなりません。
例えば5億円の価値を持つ企業を2億円で購入し、数年後の企業価値が3億円にまで低下してしまったら、100%の損失を被ってしまうリスクがあるのです。
関連記事:企業価値評価とは?評価額の算出方法とバリュエーションを高めるメリットを徹底解説。
LBOで買収される側のメリット・デメリット
買収される側のメリット
LBOによって買収される側には何のメリットもないように感じるかもしれません。
実はLBOによって株式を売却すると、通常よりも割高で換金できるというメリットがあります。
LBOで買収する側にとっては、100%の株式取得が必須条件になるため、すべての株を購入するために付加価値を付けた金額で株式の取得を行います。
そのため、市場において株式を売却することと比べて、LBOのほうが割高な価格で株式をキャッシュに変換することができるのです。
買収される側のデメリット
LBOによって企業を買収されますと、株式が買収先に100%譲渡されるため、一切の経営権や発言権を持つことができなくなってしまいます。
役員をはじめとする社員は買収元から送り込まれることが多く、原則としてこういった人物の意向に沿った会社経営を行わざるを得なくなってしまうのです。
そのため、買収された企業の経営者や社員は、これまで通りの運営を続けることが事実上不可能になり、理想とする会社経営が困難になる可能性が高まります。
「ハゲタカファンド」という言葉が一時期流行しましたが、乗っ取りに近い形でLBOを仕掛けられますと、築き上げてきたものが一瞬で水泡に帰することになるかもしれません。
LBOの事例
ソフトバンクによるボーダフォンへのLBO
記憶に新しいところでいえば、日本国内において2006年に行われたソフトバンクによるボーダフォンへのLBOは、最も成功したLBO事例に一つといえるでしょう。
この取引でソフトバンクが支払った金額は1兆7千億円という巨額でしたが、1兆1600億円に関してはLBOを用いて調達した資金であることは有名な逸話です。
日本国内では伸び悩んでいたボーダフォンですが、ソフトバンクにシフトして以降は急激な成長を見せており、現在の躍進については触れるまでもありません。
一早いiPhoneの導入に代表されるソフトバンクの革新的な取り組みは、LBOの成功事例として紹介するにふさわしいモデルケースといえるでしょう。
リップルウッドによる日本テレコムへのLBO
日本国内で固定電話事業を展開していた日本テレコムに対し、アメリカの投資ファンドであるリップルウッドがLBOを仕掛けたのは2003年のことです。
リップルウッドが優秀な投資ファンドだったこともあり、このLBOでは複数の金融機関から投資が行われ、円滑に日本テレコムの買収が進んでいったといいます。
日本テレコムの経営権をLBOによって握ったリップルウッドですが、なんとわずか1年後の2004年には日本テレコムを手放す決断を下し、ソフトバンクに売却しました。
これによってリップルウッドは巨額の利益を手に入れたといわれており、短期間でハイリターンを得られるLBOの特長が見事に生かされた事例として語られています。
まとめ
M&Aにおける手法の一つでもあるLBOは、少ない資金で大きな企業の買収も可能であることから、投資ファンドが多用する取引でもあります。
特に買収する側にとってのメリットが大きく、買収時に金融機関から受け取る借入金は返済していきます。
その全てを買収を受けた側の企業が負うという点が特徴的です。
短期間で大きな成果を生み出すための手法です。
買収される側も友好的買収でしたら、経営陣も納得して応じているため、市場で株式を売却するより、LBOのほうが割高な価格で換金できるというメリットがあります。
ただし、敵対的買収を仕掛けられることもあります。
この場合は買収される側の経営陣の同意を得ることなく、市場で株式を買い占められます。
LBOに関心のない企業でも、敵対的買収の脅威が降りかかる前に、企業防衛策を講じておくことも大切になります。
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