「セカンドライフを謳歌するために会社を処分したい。」
「事業継承したいが後継者がいないため継承できない。」
経営そのものに意欲がなく誰かに引き継いでもらいたいなど、さまざまな理由で会社を承継、もしくは第三者に売却などしたいと考えている経営者は多いものです。
しかし、そもそもどうやって会社を引き渡せば良いかわからなくて、諦める方が意外と多くいます。
そこでこの記事では、「有限会社」に特化して、第三者に会社を譲渡する場合の売却方法や売却価格の決め方、注意点までご紹介いたします。
目次
「有限会社」と「株式会社」の違いを再確認しよう
主な会社形態として、「有限会社」と「株式会社」が存在します。
一般的に、新聞で見るような有名企業などは株式会社ですが、今回の記事で取り上げる有限会社は、株式会社とどう違うのでしょうか?
ここで再確認しておきましょう。
株式会社
「株式会社」は、株式を発行することで投資家から資金を募り、事業を行う会社のことを指します。
過去に、株式会社は1,000万円、有限会社は300万円を用意するよう定めた最低資本金制度がありました。
1 最低資本金制度が廃止されました
旧商法では、最低資本金制度が採用され、株式会社においては資本金1000万円以上(旧商法168条の4)、有限会社においては資本金300万円以上(旧有限会社法9条)とすることが求められていました。株式会社の株主や有限会社の社員は、出資額を限度とする間接有限責任を負うに過ぎず、会社の債務の引当てになるものが会社財産しかないことから、会社債権者を保護するために、資本金についての最低限度額を定めたのです。
最低資本金制度の下では、会社を設立するためには、少なくとも最低資本金額の金銭等の財産を出資しなければなりませんでした。また、剰余金配当においても、配当後の純資産額が最低資本金額を下回るような配当は出来ませんでした。
しかし、最低資本金制度の債権者保護機能については実効性がないという意見も少なくなく、最低資本金制度が新しい起業の障害となる側面も存在したため、会社法では、最低資本金制度が廃止されました。
しかし2005年に廃止され、現在は1円から会社設立登記ができるようになりました。
必要な社員数に制限はありません。役員の数も取締役が1人以上、原則として任期は2年で、株式の譲渡制限を設けている場合は10年です。
また、決算の公表は株主に対しての義務になるため、必ず行わなければなりません。
有限会社(特例有限会社)
「特例有限会社」は、会社法が施行される前、2006年以前に「有限」会社として設立した会社のことです。
2006年以降は有限会社の新設ができなくなったため、現在に存在する有限会社は特例有限会社と呼称されます。
必要な社員数に制限はありません。
必要な役員数は1人で任期に期限はなく、決算の公表をする必要もありません。
そのため有限会社は中小企業や個人、家族経営に適した経営形態といえるでしょう。
有限会社は売れるのか?
「有限会社は売れるのか?」というと、売却(株式譲渡)は当然可能です。
M&Aといった合併も可能です。
関連記事:【M&A】会社合併とは?基礎的事項から業種別のどうこうまでわかりやすく解説する!
有限会社の場合、意思決定プロセスが株式会社とは異なります。
株式会社は取締役会の決議で決定できるのに対し、有限会社は株主総会の普通決議で決定することになります。
普通決議とは、発行済み株式の過半数を保有している株主が出席し、大多数の賛成が必要となる決議のことです。
有限会社を売却する時の値段はどうやって決まるのか?
会社を売る際の値段をどのようにして決めているのかを見ていきましょう。
基本的には、株式会社と企業価値評価は変わりません。
時価純資産法 のれん代つき
時価評価し、負債を差し引いた純時価資産を算出後、営業権やブランド力などののれん代を上乗せし、企業の価値を決定する方法です。
客観性があり、わかりやすいことから中小企業のM&Aでよく使われる算出方法です。
関連記事:[コストアプローチ・インカムアプローチ]企業価値を評価する「時価純資産法」とは?DCF法との違いまで分かりやすく解説。
のれん代は、黒字企業でないと上乗せされないので注意しましょう。
黒字企業の場合、過去3年間の営業利益の平均から3年~5年分が相場とされています。
例:
- 時価純資産3億円
- 営業利益の平均3,000万円、3年分であれば、9,000万円
3億円+9,000万円=3億9,000万円
類似会社比較法
大まかに金額を算出する際に使われる算出方法です。
買い手側と売り手側が初めて会う際によく使われます。
具体的にはEBITDA(イービットエー:営業利益+減価償却費)を利用して算出します。
例:
- EBITDAが1億円
- EBITDA倍率が3倍の場合
1億円×3=3億円
有限会社を売る方法とその手続き方法
ここでの会社の売却は、株式を譲り渡すことを指します。
事業譲渡とはまた別物であることに気をつけましょう。
関連記事:M&Aの会社売却・買収の種類「事業譲渡」「株式譲渡」とは?それぞれのメリット・デメリットを含めわかりやすく解説
実質株式会社として扱われ、会社法上、譲渡制限株式という定めがあるものとみなされます。
そのため、株主全員がその制限を廃止するとしても決議できません。
有限会社は取締役会を設置できないため、株式を譲り渡す決議は株主総会の普通決議(出席した株主の議決権の過半数の賛成が必要)で行われます。
誰が会社の承認をするかについては、法律上の制限はありません。
定款に定められている事柄によって、株主総会以外に設定することも可能です。
株式を譲り渡す際、承認機関をあらかじめ変更しておくと売却時にスムーズに進められます。
あわせて、株式の譲り渡しを承認する機関を変更する場合は、定款の変更が必要です。
その定款の変更には、株主総会の特別決議が必要になります。
特別決議は、普通決議より要件が厳しく、特例有限会社の場合、保有している株式の割合に関係なく、出資者全員の半数以上の賛成が必要となります。
株式の譲り渡しを承認する機関の変更は注意しましょう。
また会社法施工後に、定款を変更していない場合、定款そのものに譲渡制限の定めがない場合があります。
ただ法律改正に伴い、登記上、すべての特例有限会社に譲渡制限株式の記載があります。
そのため原則通り、株式の譲り渡しを承認するためには、株主総会の普通決議となります。
売却しようとしている有限会社が休眠状態の時は、以下の点がないと売却できない可能性がありますので、気をつけましょう。
許認可がある
宅地建物取引業、飲食店営業許可、一般酒類小売業免許など、休眠状態でも何らかの許認可がないと買い手側にメリットがありません。
そのため、結果として買い手がつかず、会社の売却ができません。
繰越欠損金がある
繰越欠損金に関して注意しなければいけないことは、50%以上株主が変わった休眠会社で新規事業を行う場合です。
繰越欠損金はないものとして扱われますので、注意しましょう。
債務を明らかにしておく
買い手が最も不安に感じるのが、債務があるかないかです。
そのため売主と買主の間で、表明保証条項を話し合い、売却を決めるという方法が一般的です。
表明保証条項とは、売る側の会社が買主に対し、正確な情報を提示し、隠し事はありませんと保証する証明書のことを指します。
そのため、この表明保証条項に不利な条件を挙げたがらない売り手がいます。
しかし、後々、損害賠償や違約金などが発生するリスクが伴いますので表明保証条項には包み隠さず情報を公開しましょう。
有限会社を売却する際の注意点
買主と売主、株主とで綿密な協議を重ねたうえで、売却している状況であれば問題はありません
。しかし、利益追求のために従業員のことを考えず売却してしまったような場合には、以下のようなリスクがあります。
従業員による雇用形態への不満
経営者が変わったことで、雇用形態の変更や、給与面での変更を余儀なくされる場合があります。
お互いの話し合いが進められていない場合、おおむね給与面では低賃金になる傾向があります。
売却後にトラブルになる可能性が高く、人材流出のリスクも高くなります。
関連記事:
- 買収された会社の社員はどうなるのか?処遇や給料事情、リストラの有無もご紹介。
- 会社が買収された時の社員・従業員への退職金はどうすべき?会社売却(株式譲渡)を考える経営者が知っておくべきM&A退職金スキームについて解説。
経営方針変更による混乱
こちらも経営者が変わったことで、これまでの経営方針からまったく違う経営方針に変わってしまいます。
現経営陣と従業員との間でトラブルが発生するケースが高くなります。
そのため、従業員は心的なストレスを抱えることになります。
取引先との関係性が悪化
経営者が変わることで、これまでの取引先との関係性にも影響があります。
特に利益追求を望んでいる場合、契約面で修正が加わることによって、取引先からの反発が発生する可能性があります。
場合によって、取引先側にとって、メリットが感じられない内容であれば、契約破棄という事態になりかねません。
上記3つについては、売却したらそれで終わりではなく、経営者であれば売却後の会社の未来やそこで働く従業員の未来を考える必要があります。
会社売却前に十分に話し合い、なるべく上記のようなリスクが発生しないよう注意しましょう。
まとめ
有限会社と株式会社の違いから売却できるのかということを主軸に、売却価格の決め方や売却方法、注意点までご紹介いたしました。
有限会社を売却するためには、まず自分の会社の状況を把握しておく必要があるということがわかったと思います。
休眠状態であればなおさらです。
いざ売ろうと思っても売れませんので、売却を思い立ったら売却の有無も含めて、事前に情報を集める必要があります。
場合によっては会社売却の専門会社へ相談するなどを検討しましょう。
関連:事業承継における会社売却の魅力を解説!後継者がいない場合は第三者への承継を検討しよう。