近年、M&A関連のニュースを聞くことが多くなりました。
M&Aは、今では多くの企業により、一般的な経営戦略として用いられるようになっています。
特に、2018年は件数・額ともに過去最高となり、中でも目立つのが「大手企業」のM&Aです。
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ここまでM&Aが増加し、注目される理由はどのようなものがあるのでしょうか?
この記事ではM&Aが増加し注目される理由と、M&Aの具体的な事例について紹介します。
目次
M&Aが増加している背景
近年、日本でもM&Aが盛んに行われるようになっています。
少し前までは、M&Aというと会社を売り払うというイメージがありました。
あまりいい印象を持つ人はいなかったでしょう。
そのような事情もあり、マイナスイメージのある日本ではなかなかM&Aは広がりませんでした。
それに対して、欧米は以前より、M&Aが盛んでした。
以下は米国のM&A案件数及び取引額です。
しかし、2000年代に入ると、経営戦略のひとつとして、M&Aが普通に用いられるようになりました。
日本でも、今ではM&Aが実施される数は年々増加傾向にあります。
M&Aは企業の規模の拡大、財務基盤の強化、または新事業への進出などといった、成長戦略に役立つだけではありません。
実際に、業績の落ちた会社の再生のために、M&Aが使われるケースも多くなっています。
また、最近は中小企業を中心に、「後継者不足」が問題となっています。
関連記事:大廃業時代とは?中小企業の跡継ぎを含めた後継者不足問題の深刻さと有効な対策。
このような後継者不足の問題を解決するためにも、M&Aを行い第三者に経営を託す形で、事業承継を行う会社も出てきています。
近年話題にあがったM&A
件数が増加しているとはいっても、世間の注目を浴びるM&Aは限られています。
それでは、どういったM&Aが注目を集めるのでしょうか。
話題性がある会社によるM&A
話題性のある会社によるM&Aは、世間の注目を浴びます。
たとえば、ライブドアや村上ファンド、ライザップなどがいい例でしょう。
どの企業も認知度が高い有名企業であるため、こういったM&Aには注目が集まります。
話題性のある会社のM&Aは、自社の戦略の参考にもなるため、多くの経営者からも注目されることになります。
取引額が巨額なケース
大企業同士のM&Aが行われる場合、取引額が巨額になることはめずらしくありません。
数百億円程度の取引額はあたりまえで、なかには数兆円に達するようなケースもあります。
M&Aを実行するための巨額の資金を確保する際、当事者である企業はさまざまな手段を講じます。
その手段を知るうえで、巨額の取引額が動くM&Aはよい参考になります。
業界再編の転機になるケース
業界再編の転機となるM&Aも注目されます。
現在の日本は国内市場が縮小しており、業界再編が進んでいます。
業界のトップシェアを持つ会社が行うM&Aは、業界再編の大きな転機となることが多いために、特に注目を浴びます。
話題のニュース10選
武田薬品工業
2018年に行われたM&Aで最も話題になったといえるものは、武田薬品工業のM&Aでしょう。
武田薬品工業はアイルランドの製薬会社シャイアーを買収しました。
買収額は768億ドル、日本円にすると約7.6兆円ともいわれています。
これだけの取引額は日本のM&A史上でも最高額となるため、大きな話題になりました。
武田薬品工業は8日、アイルランド製薬大手シャイアーを総額約460億ポンド(約6兆8千億円)で完全子会社化すると発表した。
両社経営陣が合意した。今後は株主総会などを開き、両社株主の同意を得る手続きに入る。
実現すれば日本企業によるM&A(合併・買収)としては過去最大となる。売上高で世界トップ10に入る巨大製薬会社が日本で初めて誕生する。
買収後、グループ全体の売上高の75%は、武田がこれまで重要研究分野と位置づけてきた消化器、中枢神経、がんに加え、シャイアーが強みを持つ希少疾患と血液製剤が占めることなるとしている。
ライザップ
ライザップの事例は、M&Aにおけるネガティブな例のひとつにあげられるでしょう。
ライザップはさまざまな会社をM&Aで買収して、グループを拡大してきました。
しかし、2018年には多額の負ののれんにより、赤字へと転落します。
ライザップは経営不振の会社を買収することで、成長を続けていました。
しかし、買収した会社の立て直しに失敗したことにより、一気に赤字に転落することとなりました。
RIZAPグループが15日発表した2019年3月期連結決算(国際会計基準)は最終損益が193億円の赤字だった。
90億円の黒字で過去最高益を更新した前の期から一転。
18年11月時点で見込んでいた70億円の赤字からも大幅に赤字が膨らんだのは、急速なM&A(合併・買収)で抱えた不採算子会社の構造改革費用がかさんだためだ。
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス
ディカウントストアとして、国内トップクラスの売り上げを誇るドンキホーテを有する、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH、当時はドンキホーテホールディングス)。
2019年にユニー・ファミリーマートホールディングス(当時)から、ユニーの事業を買収したことも話題になりました。
これにより、PPIHは日本でも有数の規模の小売業となり、業績の向上も見込まれています。
19年1月に総合スーパーのユニーを完全子会社化。
ユニー買収効果と訪日客消費の好調で大幅増収、営業益は2割増。ユニーの負ののれん益も計上し純利益は3割増。年間配は6円増える。
メルカリ
オークションアプリで有名なメルカリですが、M&Aでも注目されています。
メルカリは「CARTUNE」という車のコミュニティーサービスを展開しているマイケルを買収しました。
株式交換完全子会社という形でした。
関連記事:株式交換はどんな意味?メリットやデメリット、これまでに起きた実例も一挙公開。
ノウハウや設備を吸収するだけでなく、自社のデータと組み合わせることで、さらなる事業の成長を実現しようとしています。
本株式交換により、当社の自動車関連カテゴリーと、マイケルが持つ「CARTUNE」のユーザー基盤、コミュニティ、及び運営ノウハウを組み合わせながら協業を進めることで、従前以上のスピード感を持って、パーツ領域の充実に伴う自動車関連カテゴリーの更なる強化に取り組んで参ります。
出光興産
石油会社の大手の出光興産は、2018年に出光興産と昭和シェル石油が、翌年4月に経営統合を行うと発表しました。
出光興産(5019)と昭和シェル石油(5002)は10日、経営統合に関する合意書の締結をしたと発表した。
出光興産が昭和シェルの発行済み株式の全てを取得する株式交換を実施することで19年4月の経営統合を目指す。
18年10月に株式交換契約を締結し、18年12月をメドに開催予定の臨時株主総会において株式交換契約の承認を受ける予定。
昭和シェルは19年3月29日付で上場廃止となる予定。
当時このM&Aは、石油業界の業界再編の一環として注目を浴びました。
出光興産の創業家が統合に反対していたことで計画が進まず、対立が泥沼化していましたが、2018年にようやくM&Aが本決まりとなりました。
再編が続く石油業界ですが、今回の経営統合で勢力図がどう変わるのか。
また、出光興産と昭和シェル石油の統合後の経営がスムーズにいくのかという点も注目されています。
ZOZO
2019年9月、ソフトバンク傘下のヤフー(当時)は、アパレル通販サイト大手の「ゾゾタウン」を運営するZOZOに対して「TOB」を実施すると発表しました。
関連記事:企業買収とは?友好的買収から敵対買収(TOB)まで解説。
ZOZO側もこのTOBに賛同し、ZOZO創業者で筆頭株主である前澤友作氏と、ソフトバンク創業者の孫正義氏が並んで会見をしたニュースは、世間を驚かせました。
ソフトバンク傘下のヤフーは12日、衣料品通販サイト「ゾゾタウン」を運営するZOZOに対し、TOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。
発行済み株式の50.1%を上限に買い付け、子会社化を目指す。買収額は最大で4007億円。
ZOZOは12日、創業者で筆頭株主の前沢友作社長が同日付で退任したと発表。
前沢氏はZOZO株を36.76%保有しているが、TOBに応じて大半の株式を売却し、同社の経営から退く。
買い手のヤフーにとってはZOZOを取り込むことで、Eコマース業界でトップに立つ見込みが立ちます。
ZOZOにとっては、ヤフーの傘下に入ることで成長の加速が期待できるという、両者にとってシナジー効果が期待できるM&Aといわれています。
サイバーエージェント
2018年10月、IT企業のサイバーエージェントが、サッカーJ2の町田ゼルビアにM&Aを行ったことが発表されました。
近年、IT企業がスポーツチームを買収し運営することによって、集客の増加に貢献するケースが増加しています。
サイバーエージェントが成長の核と位置づけるインターネットテレビ「アベマTV」。
年間200億円の赤字を出しているが、週間利用者数が1000万人を超えて安定すれば広告収入などで莫大な利益を生む可能性がある。
サッカーJ2のFC町田ゼルビアの経営権を取得し全ホーム試合を無料で中継しているのは、この布石だ。
サイバーエージェントは、以前にも東京ヴェルディの運営を行っていましたが、うまくいかずに撤退したことがあります。
J2の町田ゼルビアを大きく成長させられるかが注目されています。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ
2018年、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は、「カメラのキタムラ」で有名なキタムラを完全子会社化しました。
もともとCCCとキタムラは業務提携をしていましたが、お互いの経営資源を生かしきれないと判断して、完全子会社化に踏み切りました。
写真プリント大手のキタムラ(2部、2719)は15日、筆頭株主であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)傘下のCKホールディングスが実施する株式公開買い付け(TOB)に賛同すると発表した。
CKホールディングスは15日の終値を約2割上回る1株1230円でキタムラ株の全株取得を目指す。
キタムラは上場廃止となる見込みだ。
CCCは昨年6月にキタムラの第三者割当増資を引き受け、発行済み株数の約3割を保有する筆頭株主となっていた。
カメラ事業自体が衰退するなかで、CCCがキタムラをどう生かしていくのかが注目されています。
ライブドア
少し前の話になりますが、かつて堀江貴文が率いていたライブドアが、2006年に起こしたフジテレビ買収騒動は、敵対的買収の典型例といえるでしょう。
このM&Aは日本では少ない敵対的買収の典型例であるだけでなく、買収防衛策が発動したM&Aでもあります。
敵対的買収について、または買収防衛策を学ぶうえで、よい教材となるでしょう。
ライブドアは2000年代、積極的なM&A(合併・買収)を進めた。なかでも05年2月にフジテレビの筆頭株主だったニッポン放送の株式の過半数取得を目指したことは世間の注目を集めた。この件は同年4月、保有するニッポン放送株のすべてをフジテレビに譲渡して和解し、終息した。
イオン
2015年にイオンがダイエーと行ったM&Aは、当時大きな話題となりました。
イオンはダイエーに限らず、中小のスーパーの買収を続けており、自社の販売網を拡大させています。
それだけでなく、ドラッグストアも積極的に買収しており、新事業へ着実に手を広げています。
イオンがダイエーを子会社にする。2007年3月から筆頭株主の丸紅、第2位株主のイオンが協力してダイエーの再生に取り組んできたが、業績は上向かず5期連続の最終赤字となる見通し。なぜこの時期に、二人三脚による経営体制から決別することになったのか。交渉の経緯を振り返る。(詳細を29日付日経MJに)
「ダイエーの立て直しについて、来春までに結論を出しましょう」。昨年12月27日、水面下でイオンの岡田元也社長と丸紅の朝田照男社長がトップ会談を開き、ようやく抜本的な経営体制の見直しについての具体的な議論が動き出した。
まとめ
ここまで、M&Aが増加している理由と、話題になったM&Aのニュースを見てきました。
話題になるようなM&Aは、どうしても大きな話であることが多く、その多くは成長戦略に基づくM&Aといえるでしょう。
M&Aの数が増加している理由である中小企業での話などは、なかなか話題にはあがってこないものです。
それでも、M&Aがさまざまな目的で実施されていることはわかります。
企業の再生や、事業継承の例などに興味を持たれた方は、ご自分でもいろいろと例を調べて見るとよいかもしれません。
今後も、M&Aは増加していく傾向がつづくと予想されます。
実際に、あなたの身の回りでもM&Aが行われる可能性もあります。
他人事だと考えずに、いろいろと考えてみることもよいのではないでしょうか。
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