比較的小規模な事業者が多い不動産業界では、シェアの拡大や事業承継を目的としたM&Aを検討している経営者は少なくありません。
不動産業界は将来的な不安も多く、経営を続けていくために対策を立てなければいけません。
その対策のひとつとして、M&Aは有効な候補となります。
しかし、M&Aはしっかりと戦略を立てて行わなければ、失敗してしまう可能性もあります。
そこでこの記事では、不動産業界の現状やM&Aの動向について解説します。
不動産業界の現状
2000年以降の不動産業界は、社会のさまざまな問題により影響を受けています。
2007年には、高金利住宅ローンに端を発する「サブプライムローン」による問題がアメリカで発生し、日本経済にも大きな影響をおよぼしました。
2008年には、リーマン・ブラザーズ・ホールディングスの経営破綻により発生した「リーマンショック」により、日本国内でも大小問わず、多くの不動産業者が倒産する状況が続きました。
リーマンショック後は、不動産業界の規模は縮小していましたが、2012年頃から再び成長に転じ、少しずつ伸び続けています。
その理由のひとつは、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックです。
開催にあたり、建築物への需要の拡大が見込めるため、容積率などの規制緩和が行われました。
また、マイナス金利政策が続いたことによって、住宅ローン金利も値下がりしました。
そのため、不動産の購入・投資に対する需要も上がり、不動産業界全体が上向きになっています。
不動産業界の特徴
不動産業界で事業を行うためには、個人・法人を問わず「宅地建物取引業免許」の取得が必要になります。
また、不動産業を開業するためには、「営業保証金」という開業資金が必要となります。
営業保証金は、供託所に対して供託する費用のことで、1,000万円が必要となります。
ただし、宅地建物取引業保証協会に加入している場合は、営業保証金の支払いは免除されます。
この営業保証金の供託は義務ですので、基本的には必ず用意しなければなりません。
不動産業界の役割
不動産業界の主な業務は、「貸主・仲介会社」として居住地を探している顧客に対しサービスを提供することと、「管理会社」として、入居後の不動産の管理を行うことになります。
とくに「仲介会社」や「管理会社」としての役割は、多くの方々の生活に密接に関わる業務です。
「仲介会社」は、顧客の居住場所探しのサポートから、実際に入居するまでの手続きを取り扱います。
また、「管理会社」は、不動産の「貸主」と管理委託契約を結ぶことにより、入居者や不動産物件の管理を行います。
このように、さまざまな役割があるので、M&Aを検討する前に、自社がどのような業務を行っているのかを整理しておきましょう。
不動産業界の今後とリスクについて
サブプライムローンやリーマンショックによる不況の影響を抜けて、近年は不動産業界も以前よりは好況となっています。
しかし、先行きが明るいかというと、そういうわけでもありません。
日本の人口はいまや年々減少傾向にあります。
不動産業界の扱う不動産物件の需要は、人口に大きく左右されるものです。
このまま人口減少や少子高齢化が続いて物件を購入する人が減った場合、不動産業界の市場規模は小さくなっていくと予想されています。
実際、2020年の東京オリンピックまでは、不動産業界の需要も強いのですが、それ以降は需要が縮小していくと考えられています。
このままでは不動産業界自体が縮小してしまいますので、この状況を打ち破るためには、業界の再編や海外展開を進めていく必要性が高まっています。
その手段として、不動産業界ではM&Aを検討している経営者も増えてきています。
また、地方の不動産会社や中小企業などでは、経営者の高齢化と事業の後継者不足が問題となっています。
後継者がいないことで、事業承継が難しくなるケースも増えてきています。
後継者不足に対しては、M&Aの活用も有効な手段のひとつです。
M&Aを行い、第三者に不動産会社を引き継いでもらうことで、事業承継ができるのです。
こういったケースでは、M&Aによる事業承継を進めることが有効だと思われます。
不動産業界のM&Aの動向
不動産業界では、人口減少にともなう業界自体の規模縮小と、そのことが原因でおきた競争の激化によって、業務効率化を進められない会社は、競合他社に負けてしまうような状況が増えてきています。
また、この状況は今後も続くと予想されています。
とくに、入居の費用を下げることができたり、物件・設備の管理を総合的に行うことでコストを下げたりすることのできるなど、幅広く対応することが可能なのは大手企業です。
そのため、大企業の力が強くなり、総合的な力で劣る中小企業は厳しい状況におかれています。
また、さきほども述べたように、不動産会社の経営者の高齢化と少子化による後継者不足により、事業の承継問題もクローズアップされてきています。
このような状況から、とくに中小企業の不動産会社では、M&Aや会社売却を行うことで、大手不動産会社のグループ会社となって事業を継続させようとしたり、事業譲渡を行うことで後継者問題を解決しようしたりする動きが活発になっています。
不動産業界のM&Aスキーム
不動産業界でM&Aを行うことを検討しているのであれば、業界が今よりも厳しい状況になる前に実施することは、有効といえます。
M&Aのスキームとは、M&Aを行う手法のことです。
スキームによって会社をすべて売却、または譲渡するのか、会社の一部だけを売却、または譲渡するのかなどが異なってきます。
すでにM&Aを検討されている方も多いと思いますが、その際に、M&Aのスキームは冷静に考える必要があります。
M&Aにはさまざまな手法がありますが、必要なスキームはおかれた状況によって変わります。
それでは、どのようなスキームがあるのかを確認してみましょう。
【会社のすべてを譲渡】
会社のすべてを売却・譲渡するM&Aのスキームには、次のようなものがあります。
- 株式譲渡
- 株式移転
- 合併
- 事業譲渡(すべて譲渡)
【会社の一部を譲渡】
会社の一部だけを売却・譲渡するM&Aのスキームには、次のようなものがあります。
- 事業譲渡(一部譲渡)
- 会社分割
関連記事:M&Aとは?株式譲渡、事業譲渡など4つの種類と手続き・費用といった基礎的な事項をわかりやすく解説。
これらのスキームは、どれもメリットとデメリットがあります。
したがって、不動産業界の会社すべてに当てはまるよい方法はないといってよいでしょう。
M&A仲介会社などのプロの意見に従って、自社にとって最適なスキームを選ぶとよいでしょう。
なお、不動産業界では、譲渡側の経営者が保有している株式を他社に譲渡する「株式譲渡」というスキームがよく用いられています。
また、「事業譲渡」や「会社分割」というスキームによって、M&Aが実施される場合もあるようです。
まとめ
不動産業界がおかれている現状は、決して明るいものではありません。
人口の減少や少子高齢化といった問題は、不動産業界にも悪影響をおよぼすことが予想されます。
後継者不足により事業承継の問題や、競合他社との競争の激化など、さまざまな問題が起こりえます。
問題に直面した場合は、M&Aを有効的に活用して、大手企業の傘下に入ったり、友好的な関係の企業に事業を譲渡したりするなど、事業の継続を図る方向を検討することも、問題解決のひとつの手段になるでしょう。
不動産業界での事業にお悩みの場合は、M&Aを検討してみてはいかがでしょうか。