遺産相続などの際には相続税などの税金が発生しますが、会社を引き継ぐ「事業継承」の際にもいくつかの税金がかかる可能性があります。
この場合において絶対に覚えておかなければならないのが、税負担を軽減することを目的に2018年に法改正が行われた新しい事業継承税制です。
事業承継税制は事業承継を円滑に促進させるための経営承継円滑化法の一角をなします。
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事業継承税制に軸足を置いて解説を行いながら、事業継承をきっかけに発生する税金についても触れ、詳しく紹介していきます。
目次
事業継承と同時に発生する可能性がある税金
相続税
経営者の死亡に伴って事業継承を行う場合には、事業そのものや不動産、株式などを引き継ぐことになります。
引き継いだ資産に対しては相続税が課されることになります。
税率に関しては、個人的な相続も事業継承による相続も条件が同じであるため、特殊な計算を用いる必要はありません。
所有している株式が非上場企業だという場合には株価が明確に定まっていませんが、相続した株式に対する評価額も相続税に含まれることに注意しましょう。
この場合には専門的な視点からの評価が必要になりますので、税理士などのスペシャリストに相談を持ち掛けた上で納税額を算出して下さい。
贈与税
会社が保有している株式を処分せずに引き継ぐという場合には、生前、死後を問わず贈与税が発生することになります。
こちらも相続税と同じく、個人にかかる贈与税と全く同じ税率を用いた計算になりますので、特殊な計算を行う必要はありません。
贈与税は生前から対策できる税金の一つですので、贈与税の控除対象となる110万円以下の株式譲渡を早めに検討することがおすすめです。
M&Aによる事業継承にかかる税金
株式譲渡の場合
M&Aで特に多いのが株式を譲渡する形での事業継承です。
関連:会社売却にかかる税金を節税方法を含めて解説。「株式譲渡」と「事業譲渡」の税金計算の違いとは?
この場合の税率は、株主が個人なのか?それとも法人なのか?
ということによって税金の種類が異なります。
中小企業などで多いのは経営者自身が株式の大半を保有しているというケースです。
この場合には20.315%の所得税が発生します。
一方で会社が株式を保有しているという場合には、会社の利益として換算されることになります。
そのため、譲渡益の約35%という法人税が課せられることになるのです。
事業譲渡の場合
事業譲渡によって事業継承を行う場合は、個人間の取引ではなく、法人間の取引として見なされることになります。
そのため、事業譲渡によって発生する税金は消費税を加えておよそ35%となります。
比較的高額な納税を見込まなければなりません。
関連:事業譲渡でかかる税金は?種類や注意点、節税対策をご紹介。
税負担を経験させるために作られた事業継承税制について
会社に関連する資産は高額になる場合が多く、それに連動して税負担の金額も大きくなります。
ただ、納税により会社の経営が立ち行かなくなる恐れが出てくると本末転倒ですね。
そういった問題を回避するために、事業継承税制という制度が設けられています。
この制度を活用して税負担を減らし、これまで通りに経営を継続させましょう。
事業継承税制を活用するためには、一定の条件を満たさなければなりませんが、条件クリアすれば納税の猶予を受けることができるため、絶対に覚えておくべき制度です。
関連:事業承継税制とは?適用要件やメリットとデメリットも含めわかりやすく解説。
事業継承税制を活用するための条件
後継者自身が会社を引き継がなければならない
事業継承税制を適用するための最初の条件は、事業継承によって税金を支払う本人が会社の代表者であり、しかも会社の筆頭株主でなければなりません。
つまり、後継者自身が会社を引き継いで運営を行うという前提がある場合に限り、事業継承税制を活用することができます。
ただし、事業継承税制は前経営者の親族以外でも活用できる制度です。
被相続人との血縁関係が無かったとしても制度の適用が可能です。
中小企業でなければならない
事業継承税制は、中小企業を救うために作られている制度であることから、制度を活用することができるのは中小企業に限られています。
具体的には、資本金が3億円以下、あるいは従業員数が300人以下といういずれかの条件を満たす会社が中小企業として扱われることになります。
ただし、小売・卸売・サービス業の場合にはこの条件を満たさなくても事業継承税制を適用できる可能性があるため、専門家への相談を行いましょう。
税制適用後に5年間会社の経営を継続する必要がある
事業継承税制を適用できたとしても、その後5年間にわたって会社の経営を継続しなければ、事業継承税制の適用が破棄されてしまいます。
例えば、5年以内に会社の代表者が変わってしまったり、筆頭株主が変わってしまったりした場合には、税金の軽減が認められることがありません。
また、従業員数に関しても縛りがあり、5年間にわたって従業員数の8割の雇用を維持しなければならないという取り決めも行われています。
事業継承税制は、会社の経営そのものの維持や、従業員の雇用を確保することを目的に作られた制度です。
そのため、経営者が変化したり、従業員が減る、あるいは入れ替わったりした場合には、補助を満たす必要が無くなったと判断されてしまいます。
事業継承税制を活用するメリット
事業継承税制を活用しますと、本来支払うことが義務付けられていた相続税と贈与税を支払う必要が無くなります。
関連:事業承継税制の一般措置と特例措置の違いとは?特例承継計画表等の特例措置適用手続きも含めてわかりやすく解説。
つまり、会社の継承に伴って発生する税金を事実上ゼロ円にすることができるため、税的な意味で継続した経営が困難になる可能性を無くすことが可能です。
【贈与の場合】
【相続の場合】
税制適用から5年間の間は条件を満たし続ける必要がありますが、5年が経過した後は廃業や新たな後継者へ贈与によって税金支払いの免除が確定します。
納税が最終的に免除される条件等については以下で詳しくお伝えしています。
関連:事業承継税制とは?適用要件やメリットとデメリットも含めわかりやすく解説。
中小企業にとって非常に重要な税制であることは間違いありませんから、制度の適用を視野に含みながら経営を行うことを意識すると良いでしょう。
また、事業継承税制は2018年に制度が改善され、より条件の適用が簡単になったこともメリットです。
例えば猶予期間中である5年間の間に、会社の経営状況が悪化したことなどを立証できれば、その段階で事業継承税制の適用を確定できる可能性があります。
事業継承税制を活用する方法
事業継承税制を活用するためには、まずは各都道府県知事からの適用認定を受ける必要があるため申告期限内に速やかな申請を行いましょう。
申告の期限は相続開始から10ヶ月以内と決められていますが、審査にかかる期間も考慮しますと、6~8ヶ月以内には申請手続きを開始しなければなりません。
事業継承から5年間にわたって企業の体制を維持しなければならないことは既にお伝えした通りです。
その内容に相違が無いか毎年報告することも求められています。
これは「事業継続報告」と呼ばれており、初回の申請時と同じように、各都道府県知事に向けて年次報告を行う形で体制の維持を申告する必要があるのです。
この場合には、年次報告書のほかに登記事項証明書、株主名簿、従業員数証明書などの書類を添付し、各種誓約書を添え、認可を待つというのが基本的な流れになります。
まとめ
企業の継承を行う場合には、相続税や贈与税といった各種税金が発生することになりますが、中小企業の場合は事業継承税制を活用し、税負担を実質ゼロにすることが可能です。
この制度を活用するためには、継承から5年間にわたって筆頭株主や大半の従業員の雇用を維持する必要がありますが、極めて有効な税金対策として生かせます。
事業継承税制の申請は原則として相続の開始から10ヶ月以内に済まさなければならないため、時間に余裕を持って申請を終えるようにしましょう。