少子化が進み、子どもの数が減少するなか、学習塾や予備校業界は苦境に立たされています。
とくに中小の学習塾は、少子化のあおりを直接受けやすいこともあり、苦しい経営が続いています。
この記事では、学習塾や予備校業界の現状や、M&Aの動向について解説します。
目次
学習塾・予備校業界の現状
学習塾や予備校は、学校の授業やテストのための勉強や、受験対策のための学習指導を行う教育施設です。
大学受験のために通う予備校も、大きな意味では学習塾のひとつといってよいでしょう。
従来の学習塾は、大勢の生徒が講義を受けるスタイルの集団指導の塾が多かったのですが、最近は生徒ひとりひとりの学力や目標にあわせてカリキュラムを設定する、個別指導の塾が増えています。
また、アプリなどを用いて手軽に受けることもできる、eラーニングを用いた学習塾なども増加傾向にあります。
2020年から15年ぶりに教育制度改革が行われることから、大学入試の内容や学校で教える教科などにも変化があることが予想されており、学習塾・予備校業界でも、さまざまな対応が検討されています。
また、学習塾業界は新規参入しやすい事業でもあります。
学習塾は設備なども最小限で済ませることができるため、個人事業として開業しやすいこともあり、あらたに開業する学習塾も多いのも特徴です。
ただし、運営をしっかりするためには、講義を行う講師の数や質を確保することが難しく、また人件費や教室の維持費、教材費といった固定費も多いため、事業を安定して行うことは難しい面もあります。
そのため、フランチャイズ方式で学習塾を展開したり、講師をアルバイトにしたりして、コストを抑えつつ事業の拡大を図ることもあります。
ただし、学習塾側で対応をいくらしようとも、少子化という解決ができない問題もあります。
学習塾・予備校業界は、学生が主な顧客となりますので、少子化の影響をダイレクトに受けてしまいます。
少子化が進むことで、主な顧客層である小学生、中学生、高校生が減少してしまうため、学習塾同士で少ない生徒を奪い合うことになってしまいます。
さきほど述べたように、学習塾業界は参入しやすいため、学習塾の数は増加しています。
少子化により顧客が減っている状況なので、供給過多になりつつあります。
少子化の影響を見越して、高齢者や社会人向けの生涯学習事業に進出する学習塾・予備校も増えており、今後提供するサービスは、多様化していくものと予想されています。
学習塾業界の問題と対策
ここでは、学習塾業界の問題やそれに対する対策を紹介します。
少子化による生徒数の減少
近年、日本では少子化が進行しています。
とくに地方では子どもの数が減っており、なかなか生徒を集められない塾も増えてきました。
学習塾は、講師の人件費や教室などの設備費、教材費などの固定費がかさむ業界です。
生徒数が減少すると売上も減少してしまうため、固定費を払い続けることが難しくなり、廃業せざるをえない塾も出てくるでしょう。
参入障壁の低い学習塾業界では、すでに子どもの数に対して塾が多い供給過多になっている地域も少なくありません。
そうしたなか、学習塾同士の競争が激しくなれば、固定費の削減が難しい中小や個人の学習塾が利益を出すのは困難になります。
個人塾などでも、プログラミングや英会話などの新規の教育プログラムを取り入れるなど、学習塾の経営方針について検討する必要があるでしょう。
個別指導塾の増加
最近は、生徒ひとりひとりのペースや理解度に合わせて指導を行う個別指導が主流になってきています。
個別指導では生徒と講師がマンツーマンで授業を行う形式のほか、講師1名に対し2~3名ほどの生徒を担当して授業を進める形で授業が行われていきます。
個別指導を行う塾では、多くの生徒を教えることはできませんが、子どもの数が減少しているなかで、生徒ひとりひとりの事情を理解することで、効率よく勉強を進めることもできます。
今後はさらに顧客となる子どもの数が減少していくため、生徒の事情にあわせて、きめ細やかな指導を行う個人指導塾はさらに増えていくと思われます。
eラーニングへの対応
近年は、インターネットを使いオンラインで指導を行うeラーニングに力を入れる塾が増加しています。
離れた場所でも指導ができるため、塾の場所に限らず全国各地の生徒に対応できます。
顧客の減少に悩む学習塾にとって、より幅広い地域をターゲットにすることができるe-ラーニングの導入は、重要なポイントとなることでしょう。
また、最近では、毎月定額の料金を支払うだけで、学習コンテンツを提供したり、勉強を教えたりするインターネット上の塾も登場しています。
eラーニングの仕組みを利用すれば、拠点となる塾のまわりに子どもが少ないような場合でも、遠隔地の子どもを生徒として確保することもできるため、このような形の塾は今後も増えていくと予想されます。
今後は、中小の学習塾でもeラーニングや新たな授業形式を取り入れていかないと、このようなeラーニングが専門の塾に負けてしまう可能性も出てくるでしょう。
学習塾業界のM&Aの現状と動向
学習塾業界は、M&Aが活発に行われている業界のひとつです。
学習塾業界では、もともと生徒と講師の定着率が不安定です。
一般的に、学習塾の生徒は受験の終了や進学などのタイミングで塾を辞めることが多く、顧客となる期間は限られています。
講師に関しても、アルバイトの講師が多いため、定着率は高くありません。
学生や主婦のアルバイトは、短期間しか働かないことも多いのが現状です。
正社員として勤めている講師は経験値も高く、理想的な人材ともいえますが、人気講師は他の学習塾からヘッドハンティングされることも多く、やはり定着率は高いとはいえないでしょう。
そのため、学習塾・予備校業界では、M&Aを行うにあたり、顧客である生徒や、人材としての講師の獲得が優先されることが多いようです。
また、学習塾は、少子化の対策のために、異業種への進出に取り組んでいるケースが多いのも特徴です。
そのため、ノウハウや人材、設備などを獲得するために、IT企業を買収するなど、他業種へのM&Aも珍しくありません。
学習塾・予備校業界の新事業への進出や、新しい手法を用いた教育事業の開発には、こうしたM&Aは有効な手段だといえます。
まったく新規に事業を行う場合は、設備投資や人材の確保といったコストがかかるため、もともと固定費がかさみやすい学習塾にとって大きな負担となってしまいます。
しかし、既存の設備や人材を利用できるM&Aは、余計なコストを省けるため、スピーディーに事業を展開できるようになります。
学習塾・予備校業界のM&Aの相場と費用
学習塾・予備校業界のM&Aの場合、教室などの設備や講師の数、顧客である生徒の数などで費用が決まるといってもよいでしょう。
学習塾は教室の規模が小さくても成り立ちやすい事業でもありますので、小規模の学習塾で数千万円、地域で展開している中規模の学習塾であれば、数億円程度の買収費用がかかることもあります。
また、教室の規模だけでなく、人材である講師の雇用形態も買収費用に影響してきます。
中小の学習塾の場合、講師がアルバイトの学生や主婦であることが多く、人件費が抑えられています。
買収することによって、固定費である人件費が変わることもありますので、買収にかかる費用にも影響が出てくるものと思われます。
まとめ
学習塾・予備校業界は、少子化という問題に直面していることもあり、M&Aが活発に行われている業界です。
同業他社を取り込んで規模を大きくしたり、新規事業を行うためにまったくの他業種の会社を買収したり、さまざまな対策を行っています。
また、中小の事業者が多いのも学習塾・予備校業界の特徴です。
こうした中小の事業者も、eラーニングを含む新規事業に積極的に取り組まなければ、競争相手の多い業界で生き残ることは難しいでしょう。
新規事業に取り組むときにM&Aを活用することは、有効な手段といえます。