日本社会における超高齢化の波に伴い、突然に起こりうる事業承継の機会は増えていくとされています。
事業承継のプロセスの中で資産の損失が発生してしまうと、今までの会社で大切に維持・育成されてきた事業が破綻してしまう恐れも。
この事態を避けるため、前経営者には起こりうるリスクに対して先回りしてあらかじめ計画・準備しておくことが求められています。
さて、事業承継の際にはどういったリスクが考えられるのでしょうか。
ここでは、事業承継を行うプロセスでのリスクについて考慮する際、会社を構成する3つの要素、「人(経営)」「資産」「知的資産」を枠組みとして課題を掘り下げることを推奨します。
これらの枠組みで掘り下げた場合の、それぞれの資産の損失に関わるリスクとその対策についてお伝えします。
人(経営)の承継にかかわるリスク
事業承継の際には、後継者へ経営権が渡ります。
元の会社を成長させてきた事業を誰に委ねるべきかを決める、妥当な人物の選定は事業承継成功のための大変重要な項目です。
関連:事業承継の後継者の選び方とは?跡継ぎとして息子などの親族、役員・従業員に承継した場合を検証。
この際のリスクとして考えられるのは、適切でない後継者やまだ充分に育っていない後継者が事業承継してしまうことです。
元いた従業員のマネジメントが上手くいかず、事業が上手く回っていかないというようなリスクです。
中小零細企業は特に、経営者が主にノウハウや取引先とのコネクションを握っていることが多く、経営者を妥当な人物に選定することは事業運営や収益に大きな影響を及ぼします。
また、適切でない後継者やまだ充分に育っていない後継者が事業承継してしまい、
元いた従業員へのマネジメントが上手くいかず、事業が上手く回っていかないというような事態にならないよう備えておくべきです。
それには、親族からの選定であれ、従業員からの選定であれ、先の事業承継を見越して候補者の育成及び選定をあらかじめ行っておくことです。
十分なマネジメント力を教育し、後継者に身につけさせるのには数年を要するため、候補者選定を早めに行っておくことがリスク回避策として挙げられます。
妥当な候補者の選定ができない場合に備え、M&Aなどの外部の会社への事業承継も考慮にいれておくことも必要かもしれません。
そして、組織を構成しているのは経営者だけではありません。
従業員も大切な組織の一員です。
事業承継後、後継者との関係悪化により多くの従業員が退職するケースもあるため、後継者は従業員との信頼関係を築くとことが重要です。
後継者は組織全体の運営を考え、どこを目標とするかを設定し、それにチーム全体で向かえるような動きが必要でしょう。
関連:事業承継をした後の従業員の待遇は?労働契約・条件についてわかりやすく解説。
事業承継後の労務面や人事制度においても、不安を持つ従業員もいるはずです。
労働契約内容や待遇の変化についてもしっかりと契約書を作成し、事業承継前の会社・承継後の会社・従業員の三者間で合意を取っておくことも信頼関係の構築には必要不可欠と言えます。
資産の承継にかかわるリスク
事業承継前と後では、金融機関からの融資の内容が変わることはよくあると言います。
事業承継後には、前の会社とは異なる組織編成・経営方針へ変わることになり、経営者も変わることになります。
元の会社が金融機関から得ていた信用も振り出しに戻ると考えてよいでしょう。
中小零細企業の場合、金融機関から融資を受け、それを事業推進の資金にしている場合がほとんどかと思いますが、事業承継後に信用度の減少により一括返済を求められることがあります。
事業承継を行った後に、計画通りに出た利益からうまく返済できればいいのですが、そこは経営者の手腕に大きく関わることとなるため、
外部よりよほど信頼が厚い経営者が事業を承継するか、もしくは経営者自身の個人の貯蓄を増やしておくことが重要です。
また、承継前に会社経営者が突然死亡した場合に備え、法人用の生命保険に予め加入しておくこともリスクヘッジとなります。
たとえ経営者の高齢化による事業承継であったとしても、保険を解約すれば払い戻し金を受け取ることができ、
事業承継後の金融機関への返済金と事業の運営資金に充てることができます。
資産の移動については特に、公認会計士、税理士、弁護士などの専門家に相談しながら手続きを外注し、進めていくことが必要になってくるでしょう。
しかし、金融機関や保険会社のアドバイスは事業承継を行う会社よりも自社の売り上げを重視する場合もあるため、注意が必要です。
関連:事業承継をスムーズに進めたい!相談先として最適な専門家・機関は?
知的財産の承継にかかわるリスク
会社の規模に関わらず、何らかの価値を生み出し、それを購入してくれる顧客がある限り、それはその会社ならではのノウハウがあるということになります。
そして、事業承継前の会社はそれらをうまく組み合わせ活用することにより、収益を上げてきたはずです。
この場合でいう知的財産とは、会社が成長してきた中で自社のノウハウとして培われたものを主に指します。
具体的には、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、そして技術力やブランド力、マーケティング力、ひいては顧客との人脈や情報などもこれにあてはまります。
これらは目に見えにくく、管理することが容易くはない無形の資産であり、それらを承継するというのはさらに難しいことです。
事業承継とは、単に資産が承継前の会社から承継後の会社に移動し、経営者が変わることと思われがちです。
しかし知的財産こそが会社の強み、そして競合他社と戦う競争力であり、価値を生み出している元となるものであるため、
これらを事業承継後の会社に引き継ぐことができなければ、最悪の場合事業自体が廃業となってしまうリスクさえあるのです。
この強みをしっかりと把握した上で、どのノウハウを引き継ぎ事業承継後の会社に活かしていくのか、という対話を元経営者と現経営者の間で行っていくことが大切なのではないでしょうか。
前経営者が今まで行ってきた運営方法はその時代には合っていたとしても、現代社会では顧客のニーズの変化や技術の進化がある可能性も大いにあるため、
事業計画の見直しも視野にいれなければなりません。
このことからも、知的財産を引き継ぐ際のリスクについて考えることは経営者にとって大きな課題と言えるでしょう。
このリスクへの対策は、事業承継の際に、現経営者と次の経営者で自社の知的財産は何なのかを「見える化」し、棚卸しすることがまずは必要です。
経済産業省のホームページ内の「知的資産ポータル」 *1には知的財産を具体的に考える枠組みが示されています。
また、中小企業基盤整備機構のホームページにある「事業価値を高めるレポート作成マニュアル」 *2は、無形の資産をしっかりと把握できる様式になっているため、事業承継の際だけではなく普段から自社の強みを把握して、経営に活かすこともできます。
まとめ
円滑な事業承継のポイントは、「人(経営)」「資産」「知的資産」の損失のリスクにいかに備え、適切な対策を行うかが重要だということがこの記事でお分りいただけたかと思います。
上記3つを切り口として、事業承継に際して考慮すべきポイントや課題を洗い出し、その対策を整理し「見える化」を行い、実行に移す方法を準備しておきましょう。
このプロセスを上手く回すためには「事業承継フレームワーク」という手法があり、書籍も出ています。
これは、上で述べた3要素をさらにブレイクダウンしたもので、課題の切り分けに有効。事業承継で発生する問題解決に活かすことができるはずです。
関連:事業承継とは?知られざる種類から進め方までわかりやすく解説する!