経営者が築き上げたものを次世代に引き継ぐ事業承継。
準備期間が必要な事業承継は、先延ばしにしている間に経営者が高齢化し、円滑な引き継ぎが手遅れになるなど、なかなか進まないケースが少なくありません。
これは親族内でも親族外でも同様です。
ここでは事業承継の現状と、その進め方について解説していきたいと思います。
目次
「事業承継」「事業継承」どちらが正しい?
本稿を始める前に、まずはみなさんが混同しがちな「事業承継」「事業継承」という言葉の定義から始めましょう。
この2つは似ていますが、微妙に意味の違いがあります。
「承継」は前の人から地位だけでなく精神的な部分も受け継ぐこと、「継承」は身分や権利、地位、財産など具体的なものを受け継ぐことです。
ここで取り上げる会社の事業を引き継ぐ場合はというと、前者の「承継」が使われます。これは法律用語でもあり、
条文や契約書でも「承継」の表記が使用されますので、以降は「事業承継」で話を進めましょう。
経営者の高齢化と交代が進まない現状
中小企業庁によれば、我が国の企業数の99%、従業員数の70%を中小企業が占めていますが、その数は減少傾向にあるといいます。
そして問題としているのは、「経営交代が進まないまま経営者が高齢化している」という事実です。
中小企業白書*1によると、1995年の経営者年齢のピークは47歳でしたが、2015年はそれが66歳になっています。
つまり20年間で経営者年齢の山が高い方へ20歳近くも移動しており、それはこの20年間あまり世代交代が進んでいないことを示しています。
実際、経営者年齢の構成比では、この70代、80代以上の割合が年々増えているのです。
ちなみに白書によると全国の経営者の平均年齢は、59歳9か月。そして中小企業経営者の引退年齢も、平均では70歳手前ぐらい。
つまりボリュームゾーンを見ていくと、あと7〜8年で多くの企業で経営交代が現実的になるのです。
関連:大廃業時代とは?中小企業の跡継ぎを含めた後継者不足問題の深刻さと有効な対策。
しかしどうして、経営者の交代がなかなか進まないのでしょうか。中には「廃業」が前提で交代しない企業ももちろんあります。
その理由は、「自分の代でやめようと思っていた」「事業に将来性がない」というものがやはり多いのですが(合わせると約66%)、「
子供に継ぐ意志がない」「子どもがいない」「適当な後継者がいない」と言ったやむにやまれぬ事情のものも3割ほどあります。
つまり、必ずしも業績の悪化や将来性だけが廃業の原因ではないのです。
関連:会社を廃業する理由から廃業に必要な費用をふくめて徹底解説!
また、経営交代が遅れている理由に、20年前と今では働ける年齢自体が上がっていること(実際に今の60代は元気です)、
晩婚化により後継者となる子供の社会進出が遅くなっていること、少子化が進み後継者がそもそもいないことなどの社会的な問題も関わっています。
中小企業の場合、後継者にはやはり家族や親族に継がせる割合が高いので、その中から後継者を確保しようとするとなかなか難しい場合もあるのです。
そのため、以前に比べると少しずつですが社外への引き継ぎ(M&A)も増加しているようです。
事業承継には3つのパターンがある
さて事業承継は、大きく分けると3つのパターンがあります。
1 親族内承継
現在の経営者の子などの親族に承継させる。個人事業主や小規模経営では大半を占める。
2 従業員承継
役員や従業員など、会社内で働いてきた人などから経営能力のある人に承継する。
3 社外への引き次ぎ(M&A)
後継者が不在の場合などは、株式や事業を譲渡し、外部の候補者に承継する。経営者は会社売却の利益を受けることができる。
詳しくはそれぞれの章を参照いただくとしますが、さらに「廃業」という選択肢もあります。
関連:会社をたたむのは大変?廃業の手続きを業界ごとにわかりやすく解説!
早期取り組みの重要性
これまで見たように、経営者の高齢化と承継がスムーズでないことを背景にして、中小企業庁では「事業承継ガイドライン」(平成28年12月)*2を策定しました。
これは円滑な事業承継により、日本の経済や社会活動の停滞を防ぐという目的もあります。
このガイドラインでは、大きく次の3つを示しています。
1 事業承継に向けた早期取り組みの重要性
2 事業承継における5つのステップ
3 支援体制の強化
まず「早期取り組みの重要性」です。ガイドラインによると、60代、70代の経営者でも、小規模企業の場合、事業承継の現実的な準備をしていない法人も一定数います。
調査ではその一方で、後継者の育成期間に「5年」、あるいは「5〜10年」と答えた回答が合わせて半数を超えていたことから、
残り時間はそれほどないのに、事業承継を後回しにしている現状がわかるでしょう。
中小企業の経営者は忙しく対応が遅くなることは仕方がないのでしょうが、
もし育成期間が10年とすると、60代に入ったぐらいにはすでに後継者問題に着手していなければなりません。
事業承継における5つのステップとは
それでは中小企業庁のガイドラインが示す5つのステップ*3を見てみましょう。各タイトルはガイドラインのものを使っています。
ステップ1:事業承継に向けた準備の必要性の認識
事業承継に10年かかるなら、経営者が60代になったら早速始めるのが望ましいとされています。
ただし現在の世の中では60歳はまだまだ働き盛り、特に経営者はそうですよね。
しかし先延ばして専門家を訪れた時にはもう手遅れといったケースもあります。
なのでここでは、まずは自覚することを最初のステップにしています。
自分ひとりで抱え込まず、専門家や金融機関などに相談し、10年後を見据えて取り組むきっかけを作る。
そのためには外部の力を借りることも大事です。
ステップ2:経営状況・経営課題等の把握(見える化)
簡単に言ってしまうと「現状把握」です。現在の経営状況、今後の成長予定、開発力の見直し、そして経営資源がどのくらいあるのか。
例えば「知的資産」など目に見えない資産についても考えます。
関連:事業承継で人的資源と知的資源をスムーズに承継する方法は?
ここで重要なのは、経営者だけが見直すとどうしても感覚的なものになりがちなので、ここでも専門家や金融機関など外部のアドバイスを受けることです。
それにより、自分の中にも客観的な視点が生まれることになります。
そして事業承継の課題の「見える化」を行います。
後継者候補の有無の確認、いなければ候補の検討を行い、将来的に親族株主や取引先から異論が出ないように対応策も検討します。
ステップ3:事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
これは会社の経営を、後継者がいい条件で引き継げるように改善することです。
将来のことを考えると、必ずしも親族内承継がベストと言えないなら、外部の者でも会社に魅力を感じるように、事業の「磨き上げ」が必要です。
この段階では、そうした経営強化に対する取り組みをします。
ここまでが、引き継ぎの準備期間にあたります。
次のステップ4以降は、「親族内・従業員承継」と「社外への引き継ぎ」では内容が異なるので、別々に提案がなされています。
ステップ4-1:事業承継計画の策定(親族内・従業員承継の場合)
これは会社の10年後を見据えて、資産や経営権などの具体的な承継計画を立てるプロセスです。
いつ、どのように、何を、誰に、の部分ですね。
計画は後継者や親族、取引先や従業員、金融機関などとの関係を策定し、決まった後は共有することも念頭に。
経営者が高齢のまま先行きが見えないと、会社そのものへの不安感が増し、従業員の士気も落ちる可能性があります。
またガイドラインでは、ここで「企業理念を忘れずに再確認すること」をすすめています。
現実的なプロセスばかりに目が行き、そもそもの事業の成り立ちを忘れてしまうと、のちに後継者との間に齟齬が生じてしまうことがあるかもしれません。
たとえば老舗の飲食業で、「創業の味を守る」に対し「新しい味を生み出す」といった理念の行き違いがあったまま承継したらと考えてみましょう。
価値観の引き継ぎも大事なのです。
関連:親族内の跡継ぎや従業員への事業承継の手続きと注意点についてわかりやすく解説!
ステップ4-2:M&A等のマッチング実施(社外への引き次ぎの場合)
一方、承継が社外の第三者に引き継がれる場合は、株式や事業の譲渡(M&A)の仲介機関に依頼することが必要です。
その際に、「どのような形での承継を望むのか」について明確にしておきましょう。
「会社やブランドの名前を残したい」のか、「従業員はどうするか」などですね。そして仲介機関がそうした条件に合った相手先を見つけてくれるのを待ちましょう。
M&Aについては別の記事でも詳しく説明しているので、そちらをご覧ください。
関連:事業承継における会社売却の魅力を解説!後継者がいない場合は第三者への承継を検討しよう!
ステップ5:事業承継の実行・M&A等の実行
今まで見てきたステップをもとに、事業承継を実行しましょう。
まとめ
「事業承継」は、法人ならば「廃業」をしない限り、いつかはしなければならないこと。
先延ばしはせず、引き継ぎに失敗しないためにも、早めに着々と準備することが大切です。
まずはガイドラインに沿って5つのステップを踏み、後継者選びから始めましょう。
データを見ると、後継者を決めても本人の了解を得られない例も少なくありません。それから慌てても遅いこともあります。
事業継承には時間がかかるので、計画的に進めましょう。困った時には、サポート機関の手を借りてみてはいかがでしょうか。
関連:事業承継とは?知られざる種類から進め方までわかりやすく解説する!