M&Aには合併という手法があります。
会社と会社を結びつける会社再編のやり方のひとつとして、古くからある手法です。
企業規模を拡大したり、それぞれのウィークポイントを補完・補強しながら、発展してくことができます。
これまでの合併は、「吸収合併」や「新設合併」が代表的なものとしてありました。
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「吸収合併」は、合併した後に残るほうの企業が、合併により無くなるほうの企業の権利や義務など全てを承継する合併です。
「新設合併」は、合併した企業同士がともに無くなり、新しく会社を設立したあと、その設立会社に権利や義務などを承継させる合併です。
そして、今回取り上げる「三角合併」は2007年5月1日に、日本でも解禁されました。
実際に日本ではあまり見られない合併手法ですが、日本経済でも大きく取り上げられました。
2006年のソフトバンク通信事業進出の足がかりとなった英国ボーダフォン買収などは、三角合併の一つの大きな事例です。
そんな「三角合併」ですが、吸収合併や新設合併といったいどこが違うのか、今回の記事ではわかりやすく解説していきます。
目次
三角合併とは?
一般的に、合併は2つの企業の間で行われます。
三角合併(Triangular merger/トライアングラー・マージャー)はその名前の通り第3の企業(親会社)が登場します。
例を使って、解説します。
A会社とB会社の合併が行われるとします。
A会社を残し(存続会社)、B会社を無くす(消滅会社)とき、普通の合併であればA会社がB会社を承継するので株式の交付はA会社が行います。
以下は通常の「株式交換」の概念図です。
このとき、三角合併ではA会社の株式をB会社にも割り当てなくてはならずB会社を完全に子会社化することが難しくなるのです。
しかし三角合併になると、株式の交付を、存続会社のAではなくA会社の親会社であるa会社が発行するのです。
そうすることによって、子会社の出資比率を保った状態で合併することができます。
つまり、B会社はA会社との合併により、a会社の子会社になってしまうのです。
a会社から見ると、自分の子会社(A会社)に合併させることによって、B会社をも子会社化できるということです。
これのどこが日本経済を騒がせたかというと、実は三角合併によって、海外企業が現金を用意することなく日本企業の買収を推し進めることができるようなったからです。
三角合併のポイントとしては、親会社の国籍が問われないという点にあります。
現在の法律上、海外企業と日本企業が株式のやり取りをすることは難しいのですが、日本で海外企業が子会社を作ることは可能です。
その子会社と日本企業との合併を進め、子会社の方を存続会社(上記のA会社にあたる)とすれば、親会社である海外企業(上記のC会社にあたる)が子会社に株式を発行することは問題ありません。
そうすれば合法的に、しかも金銭のやり取りをすることなく、日本企業を合併することができるのです。
そのため、日本の優秀な技術力や開発力を狙って、海外企業が次々に日本企業を合併するのではないか、特に敵対的買収が一気に増えるのではないか、という衝撃が日本に走ったのです。
2007年に解禁になった三角合併ですが、実は、上記のような理由から、解禁は1年延期されています。
外資の急な流入に対する防衛策も確立していないということで、三角合併の導入まで1年の猶予がありました。
実際の三角合併の事例
シティグループによる日興のコーディアルの合併
米国のマンハッタンに本社を置くシティグループ(金融業)は、日興コーディアルグループを子会社化しました。
このとき、日興にはシティグループ株が割り当てられています。
米大手金融グループのシティグループは、傘下の大手証券・日興コーディアルグループを三角合併(吸収合併する会社の株主に、存続会社の親会社の株式を割り当てる合併手法)で100%子会社化すると発表した。大手証券の一角を完全にグループ化することで、1500兆円の日本の個人金融資産の取り込みを本格化する。
ソフトバンクによるボーダーフォン買収
ソフトバンクは、2006年に英国ボーダーフォンからボーダーフォン株式会社を買収しました。
当時、買収した金額は日本企業でも最高額である1兆7500億円となりました。
これらはともに、三角合併の手法を用いて実施されました。
ソフトバンクと英ボーダフォンは3月17日、ボーダフォン日本法人の売却で合意したと発表した(写真1)。ソフトバンクの子会社が、1兆7500億円の資金を調達して英国本社が持つ株式を全て買い取り、日本法人の97.7%の株を握ることとなる。今回の買収によって、ソフトバンク・グループの年間売上高は2兆5000億円に達する。また、ボーダフォンの携帯電話1500万回線が加わることで、2600万回線を抱える総合通信事業者となる。
三角合併のメリット
三角合併のメリットにはどんなものがあるのでしょうか。
合併した会社のコントロール
まず1つ目は、合併した会社をコントロールしやすくなるということです。
子会社化してしまうことで、親会社は子会社に対して支配権を持つことができるので、合併した会社を思い通りにしやすくなります。
将来性のある開発に特化させることや、技術力を強化するなど、会社全体としての事業規模を拡大することもできます。
買収するための現金が不要
2つ目は、買収するための現金が必要ないため、買収する側の株式に価値があれば、大企業との合併もスムーズに行えることです。
三角合併も、通常の合併と手続きは変わらないため、必要以上に労力をかけなくてもよくなりました。
これは三角合併であれば日本企業間でも通用するため、買収するときの手続きの簡易化につながります。
株式の獲得
3つ目は、買収する側の株式の価値が高い場合、子会社化すればその株式を獲得することできる点です。
もともと自社発行していた株式よりも高値になることが予想され、将来的に換価するとなれば、それだけでも利益を生み出すことができます。
三角合併のデメリット
一方、デメリットとして、子会社と親会社との間での株式のやり取りに気をつけねばならない点です。
三角合併の場合、存続会社は合併した対価として、親会社の株式を発行します。
そのため、存続会社は親会社の株式を取得しなくてはなりません。
本来、子会社が親会社の株式を取得することは法律で禁じられていますが、三角合併の際は特別に許可されているのです。
しかし、実際に子会社が親会社の株式を市場で購入しようとすれば、その数が多いほど、マーケットに影響を与えることは必至です。
事前に、その購入が適切かどうか、また実際に購入が達成されるかどうかといった議論をしなくてはなりません。
また、子会社が親会社に増資することによって株式を得る方法もあります。
ただ、もともと子会社が親会社から提供された資本を、増資目的で親会社に提供するのは、「見せ金」(実際は資金の移転がないのに、あるように見せかけること)にあたる危険性があります。
これは場合によっては、法に触れることにもなるため、注意が必要です。
まとめ
実際に日本で三角合併が増えたのかというと、そうでもありません。
上記に挙げた事象もありますが、そもそも合併に関しては買収側の取締役会の承認が必要です。
また、消滅会社の側にしても株主総会の特別議決(3分の2以上の賛成が必要)での承認がなくてはなりません。
つまり、敵対的「テンダー・オファー」のような、強引な買収とは違い、企業同士の総意を得なくては行えないため、無理やり強行することは不可能です。
そのため、単に資本力があるからといって、合併は進んでいないのが実情です。
しかし税制改革で、三角合併の対価要件が緩和されようとしています。
親会社からの対価による合併と合わせて、祖父会社(親会社の親会社)での合併も可能となる案が検討されています。
これによって、孫会社を三角合併するときに、祖父会社からの対価も使用できるので、手続きなどがより簡単になります。
グローバルな社会において海外企業が日本市場に目を向けているのは言うまでもありません。
そのとき海外企業の資本力が魅力的なものであれば、提携していくという方法も検討しなくてはならないでしょう。
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さらに高い技術力を持ってはいるものの市場販路の小さな日本企業が、海外企業との提携や合併を拒否してばかりもいられない時期がきているのではないでしょうか。
日本企業の活性化や競争力の強化など、様々な角度から分析を行い、生き残りを模索してくことが必要です。
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